2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2017年3月7日

 国際テロ組織アルカイダ系のアルマスラ紙はこのほど、トランプ・ホワイトハウスの黒幕といわれるスティーブン・バノン首席戦略官を顔写真付きの1面トップに掲載。同氏がイスラム過激主義について「キリスト対イスラムの戦い」と位置付けていることを歓迎、西側へのテロ攻撃を正当化した。彼らは「バノン氏が大好き」(専門家)なのだ。

2月23日CPAC(Conservative Political Action Conference)に出席したバノン氏(GettyImages)

「イスラム・ファシズムへの世界戦争」

 アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)支持のソーシャル・メディアはトランプ氏が大統領に当選した時、大喜びの投稿で溢れかえった。なぜか。イスラム強硬派のトランプ氏が過激派を攻撃してイスラム教徒の巻き添えが増えれば、反米感情が高まり、過激派組織に加わる人間も増えるという理屈だ。

 アルマスラ紙の記事も基本的には同じ発想。記事はバノン氏が「イスラム勢力は平和的な手段では止められない」「イスラム対西側との戦いだけではなく、キリスト教とイスラム教の戦い」などと考えていると指摘。

 自分たちこそイスラムに対する戦争を仕掛けられており、テロ攻撃などで反撃するのは正しい、と正当化している。ISは「イスラム対十字軍(キリスト教徒軍)」という図式を掲げ、彼らの戦いがイスラムの地を植民地化しようとする西側侵略軍への抵抗運動と訴えて、イスラム教徒の支持獲得を図ってきた。

 バノン氏は2014年にバチカンで開催されたセミナーで「西側はイスラム・ファシズムに対する世界戦争が始まる段階にいる」と主張、先月にロシア制裁の見直し疑惑で更迭されたフリン大統領補佐官も「過激なイスラムによって鼓舞された邪悪な人々との世界戦争の最中にいる」と述べている。

 トランプ大統領が就任演説で「自由世界」ではなく「文明世界」を防衛すると公約したのも、バノン氏ら大統領の顧問らがイデオロギーや政権の体制ではなく、文明や人種的な概念でとらえる世界観を持っていることが大きな理由だったろう。トランプ氏がロシアのプーチン大統領を評価しているのも、プーチン氏がロシア正教会と極めて近い関係にあることを考えると説得力がある。

 つまり過激派にとってトランプ政権は自分たちの主張を補強してくれる存在であり、中でもバノン氏は逆の意味で人気者なのだ。だからトランプ政権が打ち出したイスラム諸国からの入国禁止も「イスラムが攻撃されている証拠」で、入国禁止措置は過激派にとっては「欧米との戦いをアピールするどんな宣伝よりも効果がある」(テロ専門家)ということだ。


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