本書に掲載しているブッシュ元大統領が描いた肖像画は意外に味があり独特の雰囲気を持つ。大統領として現職だった時代には、知性に乏しい政治家として揶揄されたことも多かった。そうした政治家が引退して突然、油絵を描き始めたというギャップにくわえ、題材が戦地で負傷し障害を負った兵士たちという取り合わせも、読者の興味を引き付ける。こうした兵士たちの肖像を描く気持ちを次のようにも記す。
I painted these men and women as a way to honor their service to the country and to show my respect for their sacrifice and courage.
「彼らの国への貢献をたたえるとともに、彼らが払った犠牲と勇気に敬意を表する方法として、これらの男性や女性たちの肖像を描いた」
次の一節も筆者であるブッシュ元大統領の気持ちを表している。
This is a book about men and women who have been tremendous national assets in the Armed Forces—and who continue to be vital to the future success of our country. This is a tribute to men and women who volunteered, many in the years after 9/11, to defend our country. The greatest honor of the Presidency was looking them in the eye and saluting them as their Commander in Chief. And I intend to salute and support them for the rest of my life.
「これは軍隊で多大な貢献をした男性たちや女性たちについての本であり、そして、彼らは我が国のこれからの繁栄にとっても欠かせない存在であり続ける。本書は、わたしたちの国を守るために自ら志願した男性たちと女性たちへの賛辞である。その多くは911以降に従軍した。最高司令官として、彼らの顔を見据え敬礼することは、大統領として最大の名誉だった。わたしは残りの人生を通じて、敬意を表し支え続けるつもりだ」
逆境に負けない兵士隊の勇敢さをほめたたえる
そもそも、戦争を繰り返している国でなければ、こうした本は生まれない。さらに内容もなんともアメリカらしい楽観に満ち前向きだ。国のために自己を犠牲にし不幸にして片腕や片脚を失ってしまったものの、家族の支えもありリハビリを頑張って、社会復帰して頑張っている。ほぼワンパターンな元兵士たちの話が続く。兵士によっては腕や脚を切断した大けがを負った後でも軍に再び戻っている。しかも、リハビリの糧となったのは決まってゴルフやマウンテンバイクなどのスポーツだというのは興味深い。例えば、次のような感じだ。
In 2005, Pete Lara's unit was on the hunt for Abu Musab al-Zarqawi, the leader of Al Qaeda in Iraq. When they raided his suspected safe-house, they were ambushed. Pete was surrounded and took enemy fire from all directions. The first bullet went through Pete’s weapon and hit him in the face; then he was shot from the left through his arm and back, and again from the right. After 50 surgeries and a lot of hard work, Pete plays a solid game of golf.
「2005年にイラクで、ピート・ララの部隊はアルカイダのリーダーであるアブ・ムサブ・ザルカウィを追跡していた。疑わしい隠れ家を襲撃した際、待ち伏せていた敵に襲われた。ピートは取り囲まれ、あらゆる方向から撃たれた。最初の銃弾はピートの武器を貫通して顔を直撃した。次に、左側から腕と背中を撃たれ、次いで右側から撃たれた。50回の手術と多くの努力を経て、今やピートは手堅いゴルフをする」
戦争の犠牲となった兵士の不幸には焦点を当てず、傷を負ってなおゴルフに楽しみを見出す前向きな生き様を賞賛する。戦争の悲惨さを訴えるのではなく、逆境に負けない兵士隊の勇敢さをほめたたえる。これが、本書の基本的なスタンスだ。