もちろん、女性兵士も登場する。メリッサ・ストックウェルは24歳の時に、イラクで左脚を失った。
On April 13, 2004, three weeks into Melissa’s deployment to Iraq, her convoy was headed into central Baghdad. As they drove through an underpass, her vehicle hit an IED. A combat medic performed emergency surgery on the scene, stabilizing Melissa and saving her life. She was the first female to lose a limb in the war on terror.
「2004年4月13日、メリッサがイラクで従軍して3週間たった時、彼女がいた護衛隊はバグダッド中心部に向かっていた。ガード下を通っていた時、彼女が乗っていた車両は即製爆弾にやられた。衛生兵が現場で緊急手術を実施しメリッサを安静にし命を救った。メリッサは対テロ戦争で脚を失った最初の女性だ」
メリッサは除隊した後、大学で義足について学び、陸上競技や水泳、自転車競技に取り組み、2016年のリオ・パラリンピックのトライアスロンにアメリカ代表として出場し銅メダルを獲得した。
ブッシュ元大統領は移民への配慮も忘れない。9歳の時に母親に連れられメキシコから不法にアメリカに移住した兵士も取り上げている。この兵士は2009年にアフガニスタンで従軍中に負傷し右脚を失った。アメリカに移民してきた人々も国のために犠牲を払っている例だとし、移民の受け入れに後ろ向きなトランプ大統領への批判ともとれる次のような一節もあった。
He became an American citizen in May 2009—at Bagram Airfield in Afghanistan. Juan’s story is one example of the countless ways that immigrants make America great.
「彼はアフガニスタンのバグラム空軍基地で2009年5月に米国市民となった。ホアンの例は、さまざまな面においてアメリカが移民のおかげで偉大な国になっていることを示す例の一つだ」
大統領の自身の決断に対する責任のひとつのとりかた
もちろん、本書で取り上げた98人は、アメリカの退役軍人のごく一部にすぎない。巻末に掲載しているジョージ・W・ブッシュ財団からの告知の一部を次に引用する。
The pages of this book contain the stories of warriors who volunteered to wear the uniform of the United States, who served courageously in Iraq and Afghanistan, and were injured in the line of duty. The men and women highlighted in Portraits of Courage are just 98 of the approximately four million post-9/11 veterans—each of whom have unique experiences and goals for their lives back home.
「本書には、自ら志願してアメリカの軍服を着た戦士たちのストーリーを収めている。イラクやアフガニスタンで勇敢に戦い、そして任務中に負傷した者たちだ。本書Portraits of Courageで紹介した男性や女性たちはわずか98人で、911以降に退役した兵士たち約400万人の一部にすぎない。彼ら一人一人も退役し家に帰った後には、それぞれの体験や思いがある」
アメリカのために戦った退役軍人は911以降だけでも約400万人もいるという。退役した後の兵士たちと、その家族たちを支える必要性を強調している。最高司令官として、自らの権力を行使して戦地に兵士たちを数多く送り込んだ大統領としては、退役軍人たちへの思いは計り知れないものがあるはずだ。911の後、アメリカがイラク戦争に踏み切ったのは間違いだったとの論評は絶えない。しかし、開戦の決断を当時下したブッシュ元大統領は、兵士たちに犠牲を強いたという現実からは逃れられない。本書は大統領の自身の決断に対する責任のひとつのとりかたなのだろう。
蛇足だが、ブッシュ元大統領が肖像画を描いた日本人の名前が1人出てくる。実は、兵士たちを描きはじめる前に、ブッシュ元大統領は在職中に出会った世界の要人たち約30人も油絵で描いている。その肖像画についても本書のなかでは少し言及しており、日本人の名前も出ている。当然ながら、現職の時に親交があった小泉元首相である。
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