中国は会談で「衝突せず、対抗せず、相互尊重、協力・ウィンウィンの原則を遵守してお互いが関心を寄せる議題を処理する」との表現も用いているが、これを具現化したのが通商問題担当として汪洋副総理を、また外交・安全保障問題には王滬寧政治局委員以下、楊潔篪国務委員や王毅外相を充て、テーマ別に計四つの話し合いを行い、対応するという砕心勉励ぶりを見せたのである。
これは中国が当初からこの会談を、まるで薄氷を踏むような気持ちで調整していたことの現れでもある。
3月末から1週間ほど北京を訪れていた私は、そこで会った複数の外交関係者が、「今回の訪米には、主席もあまり乗り気ではないらしい。理由? そりゃ成果が期待できないからさ」
と口をそろえるのに接していた。しかも米中のトップ会談であれば十分すぎる準備期間が設定されるのが常であり、こんなに短期間で調整した米中首脳会談は初めてのことだからなおさらである。
中国が元首を担ぎ出す外交は西側の感覚とは多少違っている。国家主席が相手国のトップと丁々発止やり合うような場面を、できる限り避けようとするからだ。そのために中国は3月26日から先遣隊を米国へと送り最終的な詰めの作業を行っていたのであり、それ以前の楊国務委員の訪米やレックス・ティラーソン国務長官を中国に迎えるなかでも調整は進められたのである。
通常、元首は事務方が走り回って固められた平らな道を進み、相手と余裕の笑顔で握手しなければならない。そのミッションを従来にない短期間に、またクセの強いとされる新大統領とそのスタッフらとの間でこなさなければならなかったのである。しかも、中国側はトランプ大統領がどれほど現実に外交をグリップしているのかについても見極められずにいたようなのだ。
その意味では大きなチャレンジであったというべきだろう。
中国側を喜ばせたトランプの発言
一方、米国側の視点はどうだったのか。
個別の問題では決して満足したわけではなく、多くの宿題を中国に迫っているが、基礎となる二国間の関係では中国に応え、歓待したといえるのではないだろうか。
ティラーソン国務長官はNATO外相会合をキャンセル――最終的にはNATOが日程をずらして出席――して習一行を空港で出迎え、トランプ大統領の孫たちが中国語で「茉莉花」を歌い、「三字経」や唐詩を暗唱するパフォーマンスもそうだが、何よりトランプ大統領が習主席との信頼関係に言及したことは中国側を喜ばせた。
ロイター通信は、「(米国は)中国との関係で目覚しい進展が得られた。(中略)習主席との間で傑出した関係を築くことができた」と報じ、中国側はよほどうれしかったのか「非凡的友誼」と訳して大々的に報じた。
在北京のアメリカ大使館のホームページでは、トランプ大統領の言葉が中国語に訳されて紹介されたが、そこでは「習主席と私は、十分に良好な関係へと発展させることができた。今後はさらに会談を重ねることを期待する。そして両国間に潜在する多くの非常に困難な問題が解決へと向かうと信じている」との言葉も紹介された。