シリア攻撃は中国に突きつけた「踏み絵」だったのか
だが、気になるのはやはり首脳会談の途中で米軍がシリア・アサド政権軍に向けて地中海から59発のトマホークを撃ち込んだことだ。これについては挑発行為を繰り返す北朝鮮に対する直接的な警告と同時に、北朝鮮問題の解決について、腰の重い中国に本気で取り組むことを促す意味があったとの解説が多く聞かれ、また実際に米政府の高官もそう言及している。
だが私は、これはむしろ米国がロシアとの関係で中国に突きつけた「踏み絵」であったと考えている。
理由は、アサド政権への攻撃がそのまま米ロ関係の破壊へと直結することだ。そして驚いたのが米軍のシリア攻撃後に会見した中国外交部の反応に少しの焦慮の様子が見られなかったことだ。しかも抽象的な表現に徹し、米国への直接の言及を避けたのである。これは事前に知らされていたと考えても不思議ではない。
従来、シリア問題ではロシアと歩調を合わせるように国連安保理で拒否権を発動してきたことから考えれば、トランプ大統領なみの変心である。さらに中国は安保理において従来の姿勢を転換して棄権するという露骨な姿勢も見せた。
ロシアが米国の行為を「侵略」(プーチン大統領)とまで表現し、米国との関係を「後戻りのできないレベル」(ラブロフ外相)と怒りをぶつけたことと比べてもいかにも物足りない反応だといえるだろう。
このミサイル攻撃には、対北朝鮮という意図はあったにしても、やはりその背後にはロシアとの関係での「踏み絵」という目的が大きかったのではないかと思われるのだ。
そして中国は、この踏み絵をきちんと踏んだことでトランプ大統領との信頼関係を手に入れたのである。
日本では相変わらずトランプ大統領が日中のどちらに好感を抱いているかといった意味のない視点で外交を見ることから抜けきっていないが、米中どちらともきちんとした関係を築かなければならない時代が始まったということをもっと真剣に考える時期を迎えたことを認識すべきだろう。
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