2024年12月19日(木)

Wedge REPORT

2017年6月10日

障がい者をスタッフに

 この数年の間に、社会福祉関係の法律、制度が改正されて、サービス付高齢者住宅(サ高住)と介護付有料老人ホームが急増した。中でも堺市はこの数年の間にサ高住が断トツで多くできたという。稲穂会が運営している特別養護施設には介護度が「3」以上でないと原則入所できないが、サ高住には介護認定が「3」以下でも入れることもあって、この数年は介護の必要な高齢者がサ高住や介護付有料老人ホームに取られる傾向にあるという。

 これを表すように高橋理事長は「現在は、計画以上にベッドが空くこともあり、経営的にも入所者が入ってくれないと困ることになる。10年ほど前までは社会福祉法人は施設を建て替えするときは補助金を使うことができたため、貯えを多くしておかなくてもよかった。しかし、いまは制度が変わって、大部分で自前の資金が必要になり、社会福祉法人もある程度は貯え、繰越金が必要になる時代になっている」と、取り巻く経営環境は厳しさを増している。

 さらに深刻になっているのがスタッフの人手不足だ。「いまのままだと人材がどうしても足りない。数年前までは外国人をスタッフとして使うのはチームワークや管理の観点から消極的だったが、ベトナム人の研修現場を見学してから見方が変わった。彼らは優秀で勤勉で、日本語も最低限度は話せる。介護現場に外国人を3~4人入れる予定があるので、近い将来はフィリピンかベトナム人のスタッフを導入したい」と外国人雇用にも前向きだ。

 稲穂会の独自の取り組みとしては、障がい者を施設のスタッフとして積極的に活用している。現在は3人がこの施設のスタッフとして働いている。その中の一人は勤務歴12年になり、単純な介護業務だけでなく洗濯、入浴補助などいくつもの仕事をこなしている。日勤だけだが、スタッフからは仕事を任せられる「戦力」になっている。このスタッフは初任者研修資格を得ようと、休みの日には研修も受けるなど、さらなる技量アップを目指している。障がい者に対してもできる仕事があれば、積極的に仕事の場を提供し、少しでもやりがいを持ってもらいたいというのが高橋理事長の考え方だ。

ジレンマ

 高齢化が進んだことで認知症患者が急増している。これを踏まえて認知症ケアにも力を入れようとしている。高橋理事長は「もはや、認知症は高齢者だけの問題ではない。認知症になっても楽しく生きていけるような地域を作りたい。このため、スタッフには認知症ケアの研修に行ってもらっている」と、認知症への取り組みにも先手を打とうとしている。

 高齢者施設を運営する理事長は地元地域とのつながりを大切にしてきている。そうした中で16年7月に神奈川県で痛ましい事件が起きた。高橋理事長は「あの事件が起きたことで、防犯に注意するように要請をされるようになった。この周辺は個人宅でも鍵を掛けていない家が多く、防犯は良い意味で気にしなくてもよかったが、そうもいかなくなった。そのせいで、誰もが気軽にうちの施設に立ち寄れなくなり、地域とのつながり、交流が少なくなる恐れが出てきている。防犯も大事だが、地域とのつながりも重要なので、どちらを優先するか悩ましい」と話す。

  
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