なぜ澪の料理が次々と盗まれるのか
澪が悩んだ末に思い立ったのは、「だし」である。大阪では昆布からだしをとるが、江戸ではカツオである。昆布とカツオの「あわせだし」を澪は作り出して、それを茶碗蒸しにして売り出した。名前も「とろとろ茶碗蒸し」とした。
「はてなの飯」は、周辺の飯屋で次々に真似るところが出て、いったんは「つる家」から客が去ったが、味がわかる客が戻ってきた。
「とろとろ茶碗蒸し」は、江戸の料理番付で初登場ながら「関脇」となって、「つる家」は沸いた。それも束の間で、客足が途絶えた。一流料亭の「登龍楼」が離れを作って、「とろとろ茶碗蒸し」を出し始めたからだった。しかも、値段は「つる家」の2倍のひとつ40文にも関わらず。
澪の茶碗蒸しを食べた、小松原(森山)は「どうしようもない。どうしようもなくうまいじゃないか」とほめる。しかし、次のように語るのだった。
「客が登龍楼にいくのは、見えじゃない。張りだ。一生いけない店に普通に二度行く金で生きる張り合いができる。登龍楼の主人は煮売り屋から、のし上がった。しかし、いまも向上心を失わない。こんな店はつぶれてしまえ」
小松原の言葉に傷ついた澪が泣き顔になる。小松原は、澪の顔に手を当てて、八の字眉を思いっきり持ちあがるようにしていう。
「そんな顔をしていると眉がいずれ地面についてしまうぞ。俺はお前のが好きだ。登龍楼のも食ってきたが、お前のは優しくて、飽きのこない味だ。飽きのこない料理は長く愛される。味のわかるやつは戻ってくる」
澪が登龍楼に対抗するために、ご飯や揚げ物などをすべて三つ葉で作った「三つ葉尽くし」を新たに工夫する。しかし、それはすでに登龍楼で始めていた料理だった。
なぜ「つる家」の料理が次々に盗まれるのか。澪と小松原の恋模様とともに、ドラマは幾重にも仕掛けがありそうだ。
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