過激派組織「イスラム国」(IS)は首都としていたシリア・ラッカから多数の幹部と戦闘員をイラク国境に近い東部に脱出させ、最終決戦の地を移そうとしていることが鮮明になってきた。ロシア軍の空爆で指導者のバグダディが死亡したとの情報が飛び交う中、大詰めのIS壊滅作戦は新たに複雑な様相を呈している。
ゲリラ戦に活路
IS壊滅作戦は現在、最終段階に入ったイラクのモスルと、6月6日に突入が開始されたラッカ、という2つのIS拠点で進められている。ラッカの奪還は米主導の有志連合軍の空爆支援の下、クルド人とアラブ人の混成部隊「シリア民主軍」(SDF)によって行われている。
米軍は作戦の開始に当たって「長く、厳しい戦い」としていたが、SDFはラッカの北部、東部、西部から侵攻し、地雷原を突破するなど予想を上回る速度で市の中心に迫っているようだ。
市内では水の供給や電気が途絶え、市内への食料運搬手段だったユーフラテス川のフェリーが攻撃されたため、食料の供給がストップ。ISの“人間の盾”となっている約20万人の住民は厳しい生活に追い込まれている。
こうした中、ロシア国防省は5月28日のラッカ南郊での空爆で、バグダディが死亡した情報があると発表。ISの幹部30人と戦闘員300人を殺害したことを明らかにした。バグダディについては、これまでに何度か死亡説が流れたことがあり、その真偽は不明だ。バグダディが実際に死亡していれば、組織壊滅の瀬戸際にあるISにとっては計り知れない打撃となる。
だが、ISはラッカに立てこもって座して死を待つより、勢力を分散して生き残りを図る戦略に転換したことが濃厚だ。住民の話として伝えられるところによると、SDFの突入作戦が開始される数週間前から、多数の戦闘員が家族とともにラッカからの退去を開始、武器・弾薬、発電機、通信機器も運びだされた、という。
退去先はラッカ南東、デイル・アルゾウル県のユーフラテス川沿いのデイル・アルゾウルやマヤディーンと見られている。デイル・アルゾウルはシリア軍の支配地域だが、すでにISの包囲下に置かれている。
情勢に通じるベイルート筋は「ISはラッカで袋小路に追い詰められるのを嫌って最終決戦の地をラッカからデイル・アルゾウル県に移した。首都から分散して生き残り、ゲリラ戦に活路を見出そうとしているのではないか」と分析している。
もう一方のイラクのモスルでは、ISはイラク軍によって市西部の旧市街地の2キロ四方に追い込まれ、数百人の戦闘員が最後の抵抗を続けている。制圧は時間の問題と見られていたが、6月14日には自爆部隊約50人がイラク軍の背後から襲いかかるなど反撃、政府軍に多数の死傷者が出た。モスルの完全制圧には、なお1カ月程度の時間がかかりそう。