英マンチェスターのテロは過激派組織「イスラム国」(IS)が背後で介在していたことが濃厚になっているが、東南アジアでもISの蠢動が活発化している。イスラム教徒は27日から聖なるラマダン(断食月)入り。宗教心が強まる時期であり、特にイスラム世界でアルコールを出す飲食店はテロの危険性があり、立ち入りは御法度だ。
ダッカの悪夢を忘れるな
外務省はラマダン入りに伴い、この期間に多くのテロが発生しているとして在外邦人に注意を呼び掛けている。イスラム圏にいる日本人にとって注意しなければならないのが、集団礼拝が行われ、感情が高揚する金曜日の外出と、酒類を提供するレストランなどでの飲食だ。
特に酒を出す飲食店は、昨年7月1日のバングラデシュ・ダッカで起きたテロで日本人7人が殺害されたテロ事件を引き合いに出すまでもなく、イスラム過激派の標的になりやすい。日本人にとって「酒は百薬の長」。酒が一般的に禁じられているイスラム圏でもその脇は甘くなりがち。
ラマダン期間中、飲食で昼夜が逆転するイスラム世界は日が落ちればお祭り騒ぎだ。だからこうした雰囲気にのまれてついついレストランでワインなどを飲んでしまいかねないが、ラマダン期間中は「酒を飲むなら自宅で」を忘れてはならない。旅行者も「ホテルの自分の部屋で」が原則だ。
最もサウジアラビアやイランなどペルシャ湾岸諸国で、外で酒が飲めるのはドバイなど一部を除いては皆無。飲みたくても飲めないのだ。しかし、アラブの大国エジプトやレバノン、シリア、パキスタン、バングラデシュ、そしてインドネシアやマレーシアなど東南アジアのイスラム諸国ではアルコールは許されている。
とは言っても、こうした国々でもこの期間、酒を出す店には近づかない方がいい。このところ特に気掛かりなのは、東南アジアのインドネシア、フィリピンだ。フィリピン南部のミンダナオ島マラウイでは、23日頃からISに忠誠を誓う過激派「マウテ」「アブサヤフ」の2組織と政府軍との戦闘が激化、40人以上の死者が出る事態に発展している。
政府軍はISがフィリピンの指導者と指名したイスニロン・ハピロンを拘束しようとしているが、いまだ捕まっていない。過激派勢力にはインドネシア、マレーシアなどから潜入してきた外国人も含まれており、ドアルテ大統領はミンダナオ島に60日間の戒厳令を敷いた。
世界最大のイスラム教国であるインドネシアのジャカルタでも24日、ラマダンの行事を警備していた警察官を狙った自爆テロが発生、実行犯2人と警官3人が死亡した。実行犯はISに忠誠を誓う同国の過激派メンバーと発表されており、ISが犯行声明を出した。
インドネシアからはこれまで、約500人の若者がISに合流するためシリア入りを図ったが、水際で阻止されたケースが多く、実際にシリアに渡ったのは数十人と見られている。こうしたインドネシア人は東南アジアでのIS勢力の拡大を指導部から任されているという。
フィリピンとインドネシアの過激派はIS本部からの指示を得て、小型船舶で行き来するなど地下で連携していると見られている。現地の治安関係者はテロのほか、外国人の誘拐にも警戒を怠らないよう注意を呼び掛けており、在外邦人や邦人旅行者はこの警告を肝に銘じることが必要だ。