2024年12月15日(日)

BBC News

2024年11月19日

ナダ・トーフィク、レーガン・モリス BBCニュース(米フロリダ州パームビーチ)

アメリカのドナルド・トランプ次期大統領がフロリダ州に所有する邸宅兼プライベートクラブ「マール・ア・ラーゴ」は再び「冬のホワイトハウス」となる。その豪華な扉の向こう側では、次期大統領が新政権発足に向けて人事を検討している。ホワイトハウスのウエストウィング(執務棟)で起用されることを願う者たちの注目が、マール・ア・ラーゴに注がれている。

現職のジョー・バイデン氏は2025年1月まで大統領職にとどまるが、フロリダ州のこの場所はすでに、ワシントンに匹敵する、アメリカの政治権力の中心地となっている。

マール・ア・ラーゴのバスルームにアメリカの核兵器や偵察衛星に関する機密文書が保管されているのを、米連邦捜査局(FBI)が見つけたのはわずか2年前のことだ。そのマール・ア・ラーゴでは今や、犬型ロボットやボートに乗った武装警備員が敷地内外を巡回して回り、邸宅の中には様々な陣営関係者が大勢集まっている。

ノースダコタ州のダグ・バーガム知事は、投開票が行われた5日夜、まさにそこにいた。カシュ・パテル元国防総省首席補佐官も同様だった。

そして選挙から10日後、トランプ次期大統領は、バーガム氏を内務省と新設の「国家エネルギー会議」のトップに起用すると発表した。パテル氏については、FBIか中央情報局(CIA)のどちらかの長官ポストが取りざたされている。

世界一の富豪イーロン・マスク氏はトランプ次期大統領と共にマール・ア・ラーゴに滞在し、トランプ一家の夕食会や世界各国の指導者との電話会談に同席している。

マスク氏とその息子がこのプライベート・リゾートで過ごす様子や、パームビーチ国際空港の滑走路上にいる様子が、次々と撮影されている。マスク氏は次期大統領のそばにいるために、フロリダを頻繁に行き来している。

マール・ア・ラーゴ周辺でもポスト争い

マール・ア・ラーゴに泊まるよう招待されなかった人たちはというと、ウェストパームビーチ周辺のホテルやレストランに集まっている。新政権で影響力を得ようと争う人たちや、次期大統領の勝利を祝う支持者たちで、あちこちがごった返している。

ウェストパームビーチのホテル「ザ・ベン」のプール付きの洒落たバーには、ジョン・F・ケネディ元大統領のおいで、ワクチン懐疑派のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の姿があった。このホテルでは、偽物の氷でできたスケートリンクとクリスマスツリーが、ゲストを出迎える。

ロビーや各階のエレベーターの外には、巨大な金色のグレート・デーン犬の彫刻が飾られている。

一時期、大統領選に無所属候補として出馬していたケネディ・ジュニア氏は、今では政権移行チームの一員だ。医療政策に影響を与えるポストの座を狙っていた彼を、次期大統領は保健福祉長官に指名した

選挙戦を前にケネディ氏は、民主党から共和党に乗り換えたタルシ・ギャバード元下院議員の隣に立って、こう述べた。「さまざまなイデオロギーの人たちがいる。私たちは政権移行チームでそれらに立ち向かい、自分たちのビジョンのために戦わなければならない」。

ザ・ベンではジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員も目撃された。彼女は最近、ノースカロライナ州の共和党が優勢な地域に洪水を引き起こしたと、バイデン政権を非難した人物だ。新政権で閣僚ポストを狙っているとみられている。

豪華なイタリア・ルネッサンス様式の、海に面したホテル「ザ・ブレイカーズ」では、若い従業員たちが最も沸いた瞬間があった。米総合格闘技団体アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップのダナ・ホワイト代表が到着したのだ。ホワイト氏はトランプ次期大統領の友人で、選挙集会に揃って登場したこともある。ただ、ホワイト氏自身は、自分には政治的野心はないと話している。

しかしもちろん、野心がない人ばかりではない。BBCがホテルの廊下で遭遇した共和党関係者は、今回の政権移行は「なんでもあり」な状態で、党内のさまざまな派閥が入り乱れて覇権争いを繰り広げているのだと話した。

「トランプは、自分の前で大勢がわらわらうごめいて、自分に取り入ろうとへいこらするのが大好きなんだ」

しかしその関係者によると、「最低限の基準をクリアできる一部の人たちが、特に役職はいらないと言い始めている」のだという。この関係者はこのことを、いささか不安そうに話した。

例えばトム・コットン上院議員(アーカンソー州選出)は政権内のポストには興味がなく、それよりも上院で共和党議員団幹部になりたいのだそうだ。

1期目と「違うやり方」

トランプ次期大統領は、高官ポストへの起用を、選挙で選ばれた人物に限定するつもりはないようだ。

長男ドナルド・ジュニア氏は米フォックス・ニュースのインタビューで、父親が望んでいるのは「(トランプ氏より)自分の方が詳しいなどと思ったりしない」人物なのだと話している。さらに、ひどい人選だと思えば阻止する覚悟だとも述べた。

次期大統領は、自分が1期目に犯した最大の過ちは「悪い人間や、不忠の人間」を雇ったことだと感じている。そのため2期目には、やり方を変えるのだと、声高に主張している。

2016年当時、トランプ陣営の政権移行準備チーム責任者だったニュージャージー州のクリス・クリスティー州知事(当時、共和党)は、ホワイトハウスを去るオバマ政権と協力して政権移行計画を準備していた。しかし、その努力は無に帰した。

この年の大統領選で予想外の勝利を収めたトランプ陣営は、型破りなアプローチを打ち出し、クリスティー氏を切り捨てた。

その後、ニューヨークのトランプタワーには、トランプ次期大統領がかつて司会を務めた人気リアリティ番組「アプレンティス」とそっくりな場面が、テレビカメラの前で繰り広げられた。番組同様、新政権に採用されたい人たちが列をなして押し掛けたのだ。

トランプタワーの26階で待つトランプ次期大統領に会うため、金色のエレベーターに乗り込む人たち――その全員の姿を撮影しようと、ロビーには報道人が詰めかけていた。

2016年の当時はまだ、トランプ政権がどういうものになるのか予想がつかず、それを見極めようと世界がトランプタワーの人の出入りに注目していた。ウォール街やメディア、政界、エンターテインメント業界で影響力を持つ人々が、ひっきりなしに次期大統領に面会を求めた。その中には、米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏やアル・ゴア元米副大統領、米ラッパーのカニエ・ウェスト氏らの姿があった。

では今回はというと、トランプ次期大統領は自分への忠誠心を優先し、一番最初から自分のそばにいたのは誰かを重視しているようだ。

マール・ア・ラーゴには、要塞のような厳戒態勢が敷かれている。その周辺のホテルのバルコニーや公園やビーチには、世界中のメディアが詰めかけている。

政権交代のプロセスは依然として、意図的に型破りな方法で進められている。そしてこれまでのところ、2016年の時よりもはるかに多くのことが、水面下で進んでいる。

トランプ次期大統領が大統領選での勝利後に真っ先に要職に指名したのは、フロリダ州の政治コンサルタント、スージー・ワイルズ氏だった。首席補佐官とは、ホワイトハウス内の実務を統括する重要な役職だ。それにワイルズ氏が選ばれたのはつまり、フロリダ州政界で実績を上げてきた保守派の政権運営手法が、ホワイトハウスでも再現されることを示しているのかもしれない。

フロリダ州を拠点とするロビイング会社「アドボカシー・パートナーズ」の共同創設者スレイター・ベイリス氏は、同州での選挙戦ではワイルズ氏のために働くこともあればその逆もあったが、ワイルズ氏の味方になる方がずっといいと話す。

「イギリスからあだなを拝借するなら、スージーはアメリカ選挙政治の『鉄の女』だ」と、ベイリス氏は述べた。

ベイリス氏はフロリダ州が、「この国を愛し、有権者の意志をより良く反映する場所にしたいと思い、そのために貢献したいと思う、賢い保守派のための抵抗拠点」として機能してきたと話す。そして、トランプ次期政権を手伝いたいと手を挙げる人たちが、続々とマール・ア・ラーゴに集まっているのだと。

共和党の政治コンサルタント、マックス・グッドマン氏は、フロリダ発の大波がワシントンに押し寄せるという予感がすると話す。

トランプ陣営は、ワイルズ氏のスタッフやフロリダ州の人材を手厚く採用するだろうと、グッドマン氏はみている。フロリダ州選出の連邦議員団は上下両院とも、早い段階からトランプ候補を熱心に応援していた。

「(次期)大統領と、あれほど優れた政治コンサルタントから首席補佐官になる人のその両方が、フロリダに住んでいる。政界の人材育成の場として、フロリダ州ほどの場所は国内にほかにない」と、グッドマン氏は話した。

フロリダ州は、全米で2番目に大人数の共和党連邦議員団を擁する。それにも関わらず政府の中枢にフロリダ州の人間が就くかというと、これまでは「あまりに冷遇されてきた」のだとグッドマン氏は言う。

グッドマン氏は、ワイルズ氏が先頭に立つことでフロリダ州選出の重要人物たちがそうした要職を手にする可能性があり、状況が一変するかもしれないとした。例えば、リック・スコット上院議員が上院院内総務に、マルコ・ルビオ上院議員が閣僚の座に就くかもしれないと。

(※編集部注=上院共和党は13日、スコット議員ではなく、サウスダコタ州のジョン・スーン議員を院内総務に選出した。ルビオ議員は国務長官に指名された)

この政権移行チームに名乗りをあげた中に、ジョー・グルターズ氏がいる。彼は今、その成り行きを見守っている。

グルーターズ氏は2016年大統領選で、当時フロリダ州の共和党委員長だったワイルズ氏と共にフロリダ州でのトランプ候補の選挙キャンペーンの共同委員長を務めた。現在は州議会上院の議員だ。

「忠実な歩兵」を自称しているグルーターズ氏は、フロリダ州議会でただ一人、トランプ氏の2024年大統領選への出馬を即座に支持し、その発表に合わせてマール・ア・ラーゴに姿を見せた。

グルーターズ氏はワイルズ氏が「実戦経験豊富な」副官たちを従えてワシントンへ向かい、その副官たちをホワイトハウスのさまざまな役職に登用するだろうと期待している。

「誰が本当に(トランプ氏を)信じてきたのか、みんな知っている。(中略)ほとんどの役職について、誰をどれに就かせるのか、(移行チームは)もうはっきりわかっていると思う」と、グルーターズ氏は述べた。

ここは「MAGAの国」

トランプ氏は1980年代にマール・ア・ラーゴを購入し、初めてパームビーチの住人となった。しかし、当時は大歓迎されたわけではない。

しかし今となっては、街を歩けばここに確固たる「MAGAの国」があるのが。はっきりとわかる。「MAGA」とはもちろん、「Make America Great Again=アメリカを再び偉大にしよう」というトランプ氏のスローガンだ。街のあちこちに、「トランプ」をモチーフにしたビキニや帽子があふれている。

マール・ア・ラーゴには14日、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領の姿があった。トランプ次期大統領とマスク氏と面会するためだった。トランプ氏が今回の選挙で当選後、外国首脳と対面で会談したのはこれが初めてだ。

この場所では14日から16日かけて、保守政治活動会議(CPAC)の毎年恒例の投資家サミットも開催された。参加チケットは最大2万5000ドル(約380万円)で販売された。

来年1月に大統領となり、再びホワイトハウスの大統領執務室に陣取るようになっても、フロリダ州を目指す人の流れは決して止まらないはずだ。

トランプ次期大統領は2期目の任期中、できるだけ多くの時間をフロリダ州で過ごしたいと思うはずだ――。前出のフロリダ州のロビイスト、ベイリス氏はそう考えている。

そうすればますます、「広さ6万2500平方フィートのマール・ア・ラーゴは、政界一の神聖な不動産になる」はずだと、ベイリス氏は期待している。

(追加取材:プラティクシャ・ギルディアル)

(英語記事 Power in the Palms: Inside the pilgrimage to Mar-a-Lago

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cx2nr54q5nvo


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