2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月19日

 2024年10月31日付のフィナンシャル・タイムズ紙で、同紙のアラン・ビーティが、トランプの貿易政策を決めるのは論理よりも内部抗争であると述べている。

(AmyLaughinghouse/gettyimages・dvids)

 トランプの貿易政策は偏見と矛盾の混乱であり実際の政策と見るのは間違いであり、そのために他国がそれに論理やゲーム理論で対抗しようとするのは怒ったサイを相手にチェスをするようなものだと考える者もいる。トランプの考えが政権内部の闘いの大枠を決めることになる。

 現在、トランプは少なくとも5つの矛盾する、実現不可能な政策を掲げている。すべての貿易相手国に対する関税を10%または20%引き上げ、中国からの輸入品への関税を60%以上に引き上げる。関税収入で連邦所得税を置き換える(それは物理的に不可能だ)。相手国の関税に相当する関税を課す「相互貿易法」を制定する。そして時宜に応じてドル安を促進することだ。これらの雑多な武器(政策)の目的は、貿易赤字の解消、中国の弱体化、米国の平均所得の引上げ等である。

 トランプは保護主義者と見られているが、第一期政権時の貿易政策の特徴は、絶え間ない緊張だった。関税強硬派のピーター・ナバロから、自由貿易主義者のラリー・クドローまで様々な人間が衝突していた。欧州連合(EU)は2018年にクドローを通じてロビー活動を行い、ナバロが推進していた自動車関税の回避に成功した。

 第二期のトランプ政権も、内部抗争の再現になる可能性が高い。一見合理的に見える政策であっても、額面通りに受け取ることはできない。

 現在、自称自由貿易主義者のトランプ支持者(ケビン・ハセット等)は、相互主義貿易を推進している。この提案は、米国の既存の低関税を梃に相手に自由化させる上手な方法のように見える。しかし、それを一律に適用しようとすれば、政治問題が爆発する。

 トランプは自分の目的につき明確かもしれないが、彼自身も含め誰も特定の政策につき真剣に考えていない。トランプと一緒に仕事をした経験のある人々の中には、彼は関税そのものを好んでおり、それで政府収入を増やし、出来れば所得税を下げたいと思っていると言う人もいる。


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