トランプ大統領は5月下旬、イタリア・シチリア島で開かれる先進7カ国(G7)首脳会議に先だってサウジアラビア、イスラエルを訪れるが、この訪問で中東地域の緊張は緩和どころか逆に激化しそうな雲行きだ。トランプ氏が両国と「反イラン網」の構築で一致する見通しだからだ。イランが猛反発するのは必至で、シリア内戦の行方にも大きな影響を与えそう。
ラマダン直前に敵対姿勢
今回のトランプ氏の中東歴訪の目的は2つ。1つはイスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談して中東和平の地ならしをすること。もう1つはサウジアラビアで同国首脳や湾岸協力会議(GCC)の指導者らと懇談して米国の信頼を取り戻すことだ。
中東和平については、トランプ氏はイスラエルとパレスチナに加え、アラブ諸国や欧州諸国などによる「和平国際会議」の開催を目指しているが、イスラエルとパレスチナによる「2国家共存」という基本方式にこだわらない姿勢を示して大きな波紋を呼んだ。だが、当面は和平が進展する見通しは全くない。訪問の目的はむしろ、米国がイスラエルを重視していることをあらためて示すのが狙いだろう。
というのも、オバマ前大統領はイスラエルの入植活動を強く批判するなどしてネタニヤフ首相との関係が極度に悪化。トランプ政権に交代し、中東最大の同盟国であるイスラエルとの関係修復を内外に誇示すことが米国にとって必要だからだ。
なんと言っても主眼はサウジアラビア訪問だ。トランプ氏は、同地で開催されるGCC首脳会議にも出席し、オバマ前政権で冷却化した米国との関係を正常化することが優先課題だ。オバマ氏はサウジやイスラエルの猛反対を押し切ってイランとの核合意を推進し、両国の対米不信は極まった。
その上、オバマ氏はシリアのアサド政権が化学兵器を使用したら攻撃するという公約を果たさず、反体制派を支援するサウジの対米感情は悪化した。このため反イランを掲げて登場したトランプ氏は政権発足当初からサウジを牛耳っているサルマン国王の息子、ムハンマド副皇太子(国防相)らとの関係を強化してきた。
サウジとイスラエル、そしてトランプ氏の共通項は「反イラン」だ。トランプ氏は選挙期間中からイラン核合意の破棄を主張。大統領に就任してからも弾道ミサイル発射実験などに対してイランに追加制裁を科した。このため特にサウジ訪問では、GCC首脳会議を含め、イランへの敵対姿勢を打ち出すと見られている。しかし、そうなればペルシャ湾地域の緊張がさらに高まるのは確実だ。
訪問の時期は宗教的な意識が高まるラマダン(断食月、5月27日~6月25日)の直前だ。一方のサウジはスンニ派の盟主にして、メッカとメディナというイスラムの2大聖地の守護者。他方のイランはイスラム教少数派のシーア派の指導的立場だ。
両国は昨年1月、サウジによるシーア派の宗教指導者の処刑をきっかけに断交した。シーア派の革命輸出を恐れるサウジはイランがシリアのアサド政権を支援するのに対抗して、反体制派を支援。さらに隣国イエメンで起きた内戦でも、イランがクーデターを起こしたシーア派のフーシ派を支援しているとして、イエメンに軍事介入、対立は強まる一方だ。