2024年12月19日(木)

中東を読み解く

2017年5月8日

仕掛けた副皇太子

 しかもラマダンを前に、両者による対立は新たな段階に突入した感がある。今回仕掛けたのはムハンマド副皇太子だ。副皇太子は5月2日、「イランとの対話は不可能だ」と断じ、イランがサウジ国内の聖地を奪おうと狙っていると非難。やられる前に逆にイラン国内で戦いが起きるよう取り組むと言明した。サウジの指導者がこうしてあしざまにイランを罵るのはほとんど初めてのことだ。

 これについては「トランプ氏の訪問の前にイランとの緊張を高めて、米国が反イランで対処せざるを得なくするための目論みだ。トランプ氏はスローガンだけではなく、現実的な脅威に直面することになる。サウジ側にうまくはめられた格好だ」(ベイルート筋)との見方もある。

 こうまで言われてはイランも黙ってはいられない。国連のイラン代表がすかさず反論。特に副皇太子がイラン国内での戦いを起こすと踏み込んだことに激怒、サウジが地域に脅威を振りまき、危険な野心を持つ挑発者とやり返した。

 この両者の対立がどこまで発展するのか不透明だが、反イランのトランプ氏にしても本音では、実際の軍事的な衝突に巻き込まれるのを回避したいところだろう。

それでなくてもトランプ政権は北朝鮮情勢の軍事的緊張やシリアやイラクの過激派組織「イスラム国」(IS)との戦い、シリア内戦をめぐるロシアとの不協和音などへの対処で手一杯の状態だからだ。

 ベイルート筋は「トランプ氏の中東歴訪の副産物として、サウジとイスラエルの関係改善が一段と進む可能性がある。中東和平に役立つかもしれない」と指摘している。今回の歴訪が単に緊張を高めるだけで終わらないことを望みたいものだ。

  
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