パリ中心部のシャンゼリゼ通りの凱旋門付近で20日夜9時頃(日本時間21日未明)、警戒中のパトカーを狙った銃撃テロ事件が起きた。警官1人が死亡、2人が重傷を負い、犯人は射殺された。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。移民問題が焦点のフランス大統領選投票日を直前に控えた犯行はキリスト教徒とイスラム教徒の分断を狙ったものだ。
ベルギー・コネクション
テロの起きた現場はパリ随一の観光名所で、日本人観光客も多い場所。通行人1人が事件に巻き込まれたとの情報もあるが、日本大使館によると、邦人の被害はない。発生時には現場一帯はパニックに襲われ、多数の観光客らが通りに面したレストランなどに我先に逃げ込むなど大混乱に陥った。
事件直後にIS系のアマク通信が犯行声明を発表し、実行犯がベルギー国籍の「アブユセフ・ベルギキ」という男で「ISの戦士」と明らかにした。単独犯かどうかは不明だが、仏メディアによると、他にベルギーから列車でフランスに入った男1人が指名手配されたという。
2015年11月に起きたパリの同時多発テロ(130人死亡)でも、犯人グループはベルギー出身者が多く、今回の事件もベルギー・コネクションが色濃く浮かび上がっている。ベルギー・ブリュッセルのイスラム移民地区モレンベークでは、銃などの入手ルートがなお存在していると見られており、今回の実行犯も自動小銃を犯行に使っている。
警察関係者の話として伝えられているところによると、フランスの治安当局は実行犯がイスラム過激派の1人としてリストアップしていた要注意人物だったとされ、24時間監視の難しさがあらためて浮き彫りになっている。
今回のISの犯行声明が事件直後に速やかに出されたことについて、専門家の多くはあらかじめ準備していたのではないかと指摘。テロがシリアのIS本部から直接的な指示が下された可能性が強いことを示唆している。現在続いているイラク・モスルや、シリア・ラッカのIS壊滅作戦が激化するにつれ、こうしたテロが今後も続発する恐れが強い。
欧州でのテロは3月のロンドン、4月のサンクトペテルブルク、ストックホルム、ドイツ・ドルトムントに続くものだが、フランスのマルセイユでも18日、イスラム教徒2人が大規模テロ未遂事件で逮捕されたばかり。これはイラクとシリアの戦場と海外テロとの相関関係を浮き彫りにするものではないか。
今回のテロがISの犯行だとすれば、その狙いは何か。最大の狙いはテロを起こすことによってキリスト教徒社会とイスラム教徒移民社会にくさびを打ち込み、分断することだ。分断の結果何が起きるか。それはイスラムの脅威に脅えたキリスト教徒によるイスラム教徒への迫害、抑圧である。
キリスト教徒社会で追い込まれたイスラム教徒は社会への反発を強め、最終的にはイスラム過激派に加わり、十字軍(キリスト教徒)に対する戦いに身を投じることになる。これがISの海外テロ戦略である。「イスラム排斥」を掲げる極右「国民戦線」のルペン党首がトップを走るフランス大統領選を見ると、このISの描くシナリオ通りに事態が動いているようにも見える。