元子(武井)は、銀行の支店で匿名口座の本人や住所などを書きとめた「黒革の手帖」を作った。その一方で、銀座にクラブを持つために、夜は派遣ホステスとして、岩村叡子(真矢ミキ)がママとして経営するクラブ「燭台」で働いている。
原作の前半は、元子の悪事が成功を収める「ピカレスクロマン」(悪漢小説)である。ドラマも滑り出しから、スピード感ある画面転換によって、元子の悪女ぶりを痛快に描いていく。ドラマとは観る者が主人公に一体化する体験である。
ホステスの元子は、客のクリニックの医院長である楢林謙治(奥田瑛二)からママの叡子(真矢ミキ)と一緒に高級すし屋に誘われる。職人から「さびはどうします?」と聞かれて「さびって?」と答える。そんな元子に目を細める楢林であった。
同僚の波子(仲里依紗)と一緒にいった回転すし屋では「小柱、さび多めで!」と。
楢林と叡子(真矢ミキ)、医学部専門予備校の理事長である、橋田常雄(高嶋政伸)、そして政治家秘書の安島富夫(江口洋介)とゴルフの際に、元子は叡子の伴をする。橋田が「池ポチャ」にしたとみえたボールを探そうと、元子は靴を脱いで池に入る。ボールを手にした元子に橋田は優しい笑みを浮かべる。
しかし、ボールは池の側に落ちていた。それを拾った安島(江口)は「そのボール、どうしたんだい?」と皮肉っぽく聞いたうえに、「君とはうまくいきそうだ」という。
元子は、横領したカネをすべて引き出して、自宅のベッドの上に札束を敷きしめて笑みを浮かべる。携帯電話がなり、次長の村井亭(滝藤賢一)から横領の事実を突きつけられる。元子は翌日に支店に行くことを約束する。
支店を訪れた元子のいでたちは、行員時代の地味な服ではなく、黒いコートを素肌に羽織って、サングラスをかけていた。支店長室で支店長と次長、本店の顧問弁護士を相手に、匿名口座を記した「黒革の手帖」を示して、「これを1億8000万円で買ってください」という。さらに、横領について今後一切追究しないことを証明する念書に署名することを迫るのだった。
こうして元子は、クラブのママになる資金を手に入れた。次の標的は誰なのか。
映像作家たちの創造力を刺激する清張の小説
武井咲が「黒革の手帖」の元子役をやるのか、果たしてどうか。変幻自在の表情と衣装を変えながら、悪女を演じる武井はそうした疑念を払いのけている。
波子役の仲里依紗と、これから登場する料亭「梅村」の仲居からホステスになる、島崎すみ江(内藤理沙)ら、女優陣と武井の競演もドラマの楽しみになりそうである。
個人的な感想であるが、映画「砂の器」(1974年・野村芳太郎監督)をはじめとして、清張作品は原作よりも映像のほうが優れていることが多いように思う。「砂の器」については、清張もインタビューでそのことを認めている。いずれにしても、清張の小説は映像作家たちの創造力を刺激するのだろう。
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