加えて4月、重慶市の副市長兼公安局局長の何挺氏が重大な規律違反で調査を受けていると報道されていた。6月には何氏の免職が公表された。孫氏とは相当親しかったとされ、その汚職が影響したとの指摘もある。
7月16日に孫氏が調査を受けていると報じた北米の華字メディア「世界日報」は、消息筋の話として、14日に北京で会議が開かれていた際に、厳重な規律違反の名義で北京に留置され、調査を受けていると紹介している。また、こうも伝える。
「消息筋によると、孫政才の調査を受けている原因は妻の胡穎と関係があった可能性がある。原因は、孫氏の妻と先に失脚していた中国共産党の前中央統戦部長令計画の妻の谷麗萍がどちらも民生銀行の夫人クラブのメンバーだったこと。しかし、今までのところ、当局が孫政才と妻の具体的な嫌疑の内容を把握しているかは明らかではない」
夫人クラブについては、人民日報のウィチャット(WeChat)公式アカウントが4月、「夫人クラブ、銀監会(中国銀行業監督管理委員会)はあなたたちに目を付けた」との記事を掲載した。中国の金融界に存在する高官の夫人クラブでは、その名の通り高官の妻を招へいし、高い報酬で応じていた。その中の一つの民生銀行の夫人クラブは令計画の妻を筆頭に、政治的に問題になった人物の妻が多く属していた。
こうした原因に加え、在米華字メディアの多維新聞は7月24日、「このほか、孫政才の落馬はあるいは2002年から2006年に北京市委秘書長をしていた際に法を犯し規律を乱した行為と関係があるのではないかとのうわさもある」と伝えた。
「ほかのハイレベルな『大トラ』を引っ張り出す可能性も」?
調査理由がはっきりしない一方で、その政治的影響の大きさは明らかだ。今回の件で最大の利益を得たのは、後任となった陳氏だ。習近平氏が浙江省党委書記を務めていた時の部下で、この抜擢を足掛かりに一気に政治局常務委に入る可能性もあるとされる。常務委入りが孫氏とともに有力視されていた胡氏も、敵失で常務委入りの可能性が一層高くなった。
ともかく、これで十九大での常務委入りを巡る番狂わせは確実になった。孫氏の人脈は、失脚した石油閥の周永康氏にもつながるとされる。多維新聞は7月21日の記事では、「あるウォッチャーは、孫政才の『政治動向不明』の背後にはさらなる反腐敗運動が隠れており、その波及する範囲の広さは、金融領域、石油領域だけでなく、あるいはさらに多く、はなはだしくは農業領域まで巻き込んだ腐敗事件にまで波及するかもしれず、ほかのハイレベルの『大トラ』を引っ張り出す可能性もあるとみなしている」と指摘した。
陳氏といった子飼いの部下を重要ポストにつけたい習氏は、どの程度孫氏の失脚を利用し、権勢を強固なものにできるのか。共青団や長老たちがどの程度その動きに対抗できるのか。孫氏に対する調査が明らかにされ、その復活が不可能になったことが、今後10数年間の中国に影を落とし続けるのは間違いない。
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