2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月11日

 エコノミスト誌8月10日号は、9月14日より実施される、欧州で冷戦以降最大とされるロシアの軍事演習(Zapad)について、NATO諸国が神経を尖らしており、ロシアはこれを悪事の隠れ蓑にするとの懸念も一部にある、と報じています。要旨は次の通りです。

(iStock.com/sukmaraga/Samuil_Levich/Aleutie/MyFortis)

 ロシアはソ連時代から新兵器・戦術を試すために4年毎に西方軍事演習、Zapad(注:西方を意味する)を行ってきた。今年は少なくとも10万人規模のZapadを西部軍管区とベラルーシ(NATOの3か国と国境を接する)で行う予定だ。

 これまでもZapadはその規模と作戦内容でNATOの不安を煽ってきたが、今回はロシアのウクライナ侵攻以降初めてのZapadであり、西側との関係がこの30年で最悪の中で行われることになる。

 NATOも今年前半、ロシアのクリミア併合と東部ウクライナ侵略への対応の一環として、ポーランドとバルト三国で4個師団規模の戦闘群を展開したり、7月には20ヵ国以上、2万5千人による米主導の演習をハンガリー、ルーマニア、ブルガリアで行うなどしている。

 しかし、同じ演習でもNATOとロシアのやり方は大きく違う。プーチンは2013年以降、Zapadとは別に、通告なしの突然の演習(規模は5万人以下)を実施してきた。プーチンの狙いが効率性の向上だけでなく、近隣の小国を脅し、いずれロシアの影響圏に引き込むことにあるのは間違いない。

 2013年に突然の演習が4回実施された後、翌年2月末に始まった5回目の演習は、多数の空挺部隊、装甲車、戦闘ヘリを動員、クリミア占領の踏台になった。2008年にも、プーチンは演習を利用してグルジア侵略を始めている。

 ホッジス・アメリカ欧州軍司令官は、Zapad 2017のためにベラルーシに運ばれた兵士と軍装備品はそのまま現地に留まり「トロイの木馬」になることを懸念している。NATOが特に懸念するのは、演習の名目で長距離ミサイル、偵察ドローン、特殊部隊による西側攻撃の態勢が整えられてしまうことだ。

 さらに、ベラルーシに対するロシアの影響力を維持できるよう、Zapad 2017が兵力温存に利用されるのでないかとも懸念されている。

 疑念を持たれるのも当然で、ロシアは演習時の誤解発生を回避するための合意、ウィーン文書を無視してきた。同合意は兵士9千人以上の演習については少なくとも42日前の事前通告、1万3千人以上の演習については更に関係56ヵ国へのオブザーバー2名の派遣要請を要件としているが、ロシアは実施時期を少しずつずらし、複数の演習だったと主張して、同合意を守ろうとしない。7月のNATO・ロシア理事会では、ストルテンベルグNATO事務局長は、報告された今般のZapadの兵員数に疑義を示し、ウィーン文書の遵守をロシアに促した。

 特にNATOを苛つかせるのは、ロシアがウィーン文書を盾にNATOの大規模演習の際は必ずオブザーバーを確保することだ。NATOとしては、警戒を緩めず、Zapad終了後はプーチンが全兵士を兵舎に戻すことを願うしかない。

出典:‘Russia’s biggest war game in Europe since the cold war alarms NATO’(Economist, August 10, 2017)
https://www.economist.com/news/europe/21726075-some-fear-zapad-2017-could-be-cover-skullduggery-russias-biggest-war-game-europe


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