また「鼻血オプション」を含め、いかなる武力行使オプションも、多くのアジア専門家や軍事専門家がオープンに反対している。1月末に、ビクター・チャ氏(CSIS韓国部長・ジョージタウン大学教授)の在韓米国大使への指名が突然取り消されたが、チャ氏が「鼻血オプション」と米韓FTA協定の見直しに強く反対したことが指名取り消しの理由であるとされている。チャ氏以外にも、デニス・ブレア元太平洋軍司令官をはじめ、太平洋軍・在韓米軍・在日米軍幹部を務めた退役軍人で「鼻血オプション」はうまくいくオプションではないと警鐘を唱える元米軍幹部は多い。
政権内でも、ジム・マティス国防長官、ジョン・ダンフォード統合参謀本部議長をはじめ、「万が一の事態に備えて常に準備は怠るべきではない」という立場は堅持しているものの、武力行使の可能性を強くにおわせるような発言をしている幹部はいない。マーク・ミリー陸軍参謀長が「北朝鮮との武力行使に向けて準備せよ」的な発言をしたことが報道されることがこれまで数度あったが、その発言も、よく読むと、「軍は常に最悪の事態に備えることが必要」という文脈の中での発言であり、特に対北朝鮮武力行使が近いことを意識して行った発言ではないようだ。
これらの外的要因に加え、トランプ大統領自身が政権内に色々な問題を抱えすぎており、イラク、アフガニスタンに続いて朝鮮半島で武力行使を行うべきか否か、という大きな決定ができる状態にない可能性が高いという実情もある。2016年大統領選挙へのロシアの関与について行われている捜査や、ホワイトハウス高官100人以上が、政権が発足して1年が過ぎてもなお、セキュリティ・クリアランスが取れていないこと、様々な理由によるホワイトハウス高官の相次ぐ辞任、さらに、11月に控える中間選挙など、現在のトランプ政権は、自政権を取り巻く問題や選挙など、対応しなければいけない国内問題が山積みの状態だ。このような状態で武力行使という重大な決定をすることはおそらく不可能だろう。
出口の見えない不安定な状態が続く
このような状態の中、米国は、当面の間、経済制裁の確実な履行を関係各国に対して引き続き強く求めていくことになるだろう。しかし、トランプ大統領、ペンス副大統領を始め政権幹部が北朝鮮を核保有国としては認めないと断言している中、事態を打開するための良い方策がないことも確かで、米国はもちろん、日本にとっても出口の見えない不安定な状態が続くことにある。このような中、日本ができることは月並みだが、米国と緊密な政策連携を維持すること、弾道ミサイル防衛の強化などを通じて、北朝鮮に対して断固たる姿勢を貫くこと、さらに、文政権発足以降、中国に接近しがちな韓国が対北朝鮮政策について日米韓3カ国の足並みを乱すことがないよう、米国と共に強く働きかけ続けることに尽きるだろう。
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