2022年7月2日(土)

さよなら「貧農史観」

2011年8月11日

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昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

 我が国で農家と呼ばれる世帯の大部分はお爺さんが数十アール程度のコメ作りをしているサラリーマン家庭だ。大赤字でも彼らはコメ作りを止めない。暮らしの習慣であるとともに楽しみだからだ。だが、趣味化したコメ農家の生産力や技術レベルは当然のことながら低下している。農協生産者の中にも優れた生産者はいるが、小規模生産者たちが自己満足的に作ったコメは農協の乾燥施設で混ざってしまう。その結果、コメの品質低下やバラツキが問題になっている。生産単位が小さく適正な栽培管理が行われないからだ。職業意識を失った趣味的農家の労働生産性の低下が日本米の品質を低下させているのだ。

 青森県北津軽郡の外崎昭三さん(63歳)のコメ生産は約15ヘクタール。平年で10~11俵(600~660キログラム)という高収量で品質評価も高い。水田ではあまり使われていないボトムプラウという大型の作業機で30センチも土を起こし、レーザー光線を使った圃場(ほじょう)を均平にする機械なども導入している。1993年の大冷害の年に周りの農家が収穫皆無という時でも外崎さんだけは平年作を僅かに下回る収量だった。土作りの成果だ。さらに、中山間地域に住む外崎さんは、高低差が1メートルもある10枚以上の田を1枚1.6ヘクタールの大型区画に自力で整備したりもしている。田植えをせず畑状態で麦のように籾を播く乾田直播(かんでんじかまき)という省力低コスト技術を導入するためである。

 外崎さんの地区の減反率は50%を超えるが、外崎さんは減反をせず戸別所得補償を受け取らない。趣味的な農家が減反政策の恩恵に与り、外崎さんのような農業経営者の努力が報われないのが現在のコメ農政なのである。

農業の革新を妨害するな

 農業界は高関税を外したら日本のコメは海外産に負けると主張する。確かに外国産米と日本米の品質が同じになってしまえば外国産米に席捲される可能性もある。しかし、日本の消費者は、ある程度高価格でも、高品質・コスト低減を実現するコメ作りをしている農家の日本米を選ぶだろう。

 農業には集落機能を維持し、文化を継承してきたという産業的視点だけでは語り得ない側面があるのも事実だ。しかし、それを理由にして「貧農史観」にしがみつく農業関係者たちは、外崎さんのような農業経営者たちが実現しようとしている日本農業のイノベーションを妨害していないか。日本農業の脆弱性をことさらに強調すれば、その敗北主義によって“保護”という利権を得ることができるからだ。コメ農家のなかにも逞しい農業経営者は育っている。「貧農史観」の色眼鏡を外せば、大きな可能性に満ちあふれた日本の農業・農村が見えてくる。

◆WEDGE2011年8月号より


 

 

 


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