2024年12月20日(金)

移民問題に揺れる世界

2024年12月20日

 世界はいま、「大移民・難民時代」を迎えている。

 国際移住機関(IOM)によると、移民は2020年時点で推定2億8100万人、故郷を追われた人は22年末時点で過去最多の約1億1700万人に達した。多くの人たちはまず隣国に渡るが、その後に安全で豊かな先進国へ数千キロ・メートルにも及ぶ長い旅に出る人たちが後を絶たない。先進国を中心に38カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)によると、23年には加盟国への移民は前年比1割増の約650万人、難民申請も3割増の約270万人となり、ともに過去最多を更新した。

 目的地となった欧米には動揺が広がる。トランプ氏が完勝した米大統領選。極右勢力が躍進を続ける欧州諸国。欧米の選挙では今や、移民・難民問題が主要争点にならない方がまれだ。だが、大衆を扇動するポピュリズムとSNSで飛び交う偽情報・誤情報が相まって、論戦と現場の状況が乖離していることも少なくない。国境の現場の視点から現状を整理したい。

米州大陸:「壁」で劇場化
移民問題は不満のはけ口に

 米大統領選では数ある争点の一つだった移民問題を16年、ど真ん中に押し上げたのがトランプ氏だった。雇用や治安、麻薬などあらゆる問題を非正規移民と結びつけ、「壁を建てる!」という単純明快なメッセージがラストベルト(さびついた工業地帯)などの「忘れられた人々」を熱狂させた。

 ただ、政権発足直後の17年、太平洋からメキシコ湾まで米メキシコ国境約3200キロ・メートルをレンタカーで横断した筆者の前には、スローガンとはかけ離れた光景があった。

 壁はすでに約1100キロ・メートルにわたって建っていた。ないのは国境の半分を占める川と砂漠の奥地くらいで、もともと冷戦崩壊直後から超党派の合意でつくられていたのだ。一方、密入国は歴史的な低水準で落ち着いていた。米税関・国境警備局によると、国境での拘束者数は00年度の約168万人から減少傾向をたどり、大統領選前の15年度は約34万人と44年前まで遡る少なさだった。

 テキサス州の国境の町マッカレンで当局が手配したバスから降りてきた密入国した人たちを見て、目を疑った。小さな子どもだらけだったのだ。中米ホンジュラスから来た建設作業員の男性(37歳)は、「マラス」と呼ばれるギャングの仲間入りを断った長男(15歳)が殺害予告を受けた、と訴えた。トランプ氏が「強姦魔」と矛先を向け、かつて9割を占めた出稼ぎ目的のメキシコ人は半数を割り、ギャングによる治安悪化と貧困から逃れて難民認定を求める中米の家族連れが多くを占めていた。

 麻薬カルテルが跋扈するメキシコを縦断する道中、誘拐や強盗、性的暴行が相次ぎ、数千人規模の集団となり身を守るようになった。それが18年に始まった「移民キャラバン」だ。家族連れが目立つこの集団をトランプ氏は「侵略」と位置付け、メキシコ国境に米軍を派遣し、国境に非常事態を宣言した。米メディアも、移民阻止に次々と奇手を繰り出すトランプ氏の一挙一動を報じた。

 国境が危機的状態になったのは、トランプ氏が去った直後だった。


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