2024年12月15日(日)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年11月7日

 意外にも早期に結果が出た。今回の大統領選は、決戦州を中心に両陣営が拮抗していると伝えられていた。それもハリス氏の初期の勢いが一巡した9月以降、投票日まで1カ月以上も僅差という状態が続いたのである。

トランプを勝利へと導いたものとは(ロイター/アフロ)

 例えば4年前の2020年の場合は、当確が出たのは投票日の4日後の土曜日であった。今回も同様の事態を覚悟せよという専門家が多かったのだが、結果的には当日の深夜から早朝で決着がついた。これは予想外であった。

 これには全国各州の選挙管理委員会の努力が大きい。法律を改正して期日前投票の開票を前倒しにしたり、一部の集計を立会人の確認の下で電子化したり、きめ細かな対応が功を奏した。

 何よりも、郵送や期日前の投票に懐疑的であった共和党が、今回は積極的に活用を推進したのも効果があった。当日の投票と併せて投票率を押し上げつつ、混乱を避けることができたのはそのためだ。日本の衆院選では、浮動票となった保守票が棄権に回ったようだが、今回のアメリカでは保守浮動票の相当部分が投票したということだ。

 では、トランプ氏勝利の要因だが、大きく分けて経済、人種、そしてジェンダーの問題が作用したと言える。また全体的なトーンとして、現状への不満感情は膨張する一方であったのに対し、トランプ氏の「暴言戦術」への抵抗感については、全国的にマヒしていった、つまりトランプ氏に投票することのハードルが下がっていたということが挙げられる。

失業率は低くても雇用環境に満足していない

 まず経済だが、やはりこれが主要な要因であった。具体的には雇用と物価である。まず雇用に関してだが、今でも失業率は歴史的と言えるぐらい低い。完全雇用どころか人手不足が顕著な地域も多い。けれども、その内容としては、人々の心理として満足感には程遠い。まず、フルタイムの高給が得られないためにサービス産業で働く若者は非常に多い。

 例えばレストランや旅行業界では機械化・省力化が進み、人間の提供するサービスは切り詰められている。働く人には、それほど熟練は必要ないし、その割には最低賃金が大きくアップしているのと、労働市場がタイトなので好条件で就職できる。

 だが、多くの若者は大学で専攻した専門分野でフルタイムの職につかねば、人生設計が成立しない。サービスの現場で当面の生活は出来ても、自分の、そして社会の現状には満足していない。


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