2024年11月7日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年11月7日

人種問題を巧妙に扱ったトランプ

 次の要因は人種問題である。トランプ氏は、この点で巧妙であった。依然として人種差別とも言える過激なメッセージを繰り出し続けた。オハイオではハイチ移民が犬猫を食べているとか、プエルトリコはゴミの島という具合で、常識的に見れば悪どい内容であった。だが、この種の発言は政治というよりエンタメ芸のように受け止められ、コア支持層は「続けることを期待」する一方で、社会一般としてはマヒすることで反発が薄れていった。

 一方で、ハリス氏は時代に足を引っ張られたとも言える。16年前の2008年に、大統領選に初めて登場した際のオバマ氏の場合は、有色人種が大統領職を狙うということ自体が画期的であり、黒人だけでなく、ヒスパニックもアジア系も結束が見られた。けれども、今回のハリス氏の場合は、そこに新味は薄かった一方で、アメリカ黒人には「インド系とジャマイカ系のダブル」であるハリス氏には距離感を持たれたようだ。ヒスパニックの場合も、インドもジャマイカも英語圏なのでスペイン語の文化には「遠い人」と見られた可能性がある。

 そんな中で、決戦州のジョージア、ペンシルベニアでは、黒人票も、ヒスパニック票も、4年前のバイデン氏ほどの集票に至らなかったようだ。人種ということでは、南部国境の問題も足を引っ張った。中道票を意識して難民申請者への門戸を絞ったハリス氏に対しては、一部のヒスパニックは離反した。

 人種という点では、ミシガン州などで中東系の反発を買ったことも影響した。8月の民主党大会の際には「イスラエルを支持するがガザの事態には懸念を持つ」と明言して党内の結束に成功したハリス氏だが、その後は中道票を意識したのと、イランの対ハマス、対ヒズボラ戦争がエスカレートする中で、イスラエル支持を強めていったのが中東系と、党内左派の若者の離反を招いたと言える。

 イランの強硬姿勢の背景には、女性の人権向上を期待して選ばれた穏健派の大統領が、権力を維持するためには対外強硬姿勢を取らざるを得ないパラドックスがある。女性の人権のチャンピオンを自他ともに認めるハリス氏であるから、この点に切り込んでも良かったと思うが、そんな余裕はなかったようだ。

「ガラスの天井」への難しさ

 もう一つ意外だったのが、ジェンダーの問題である。ヒラリー・クリントン氏が初の女性大統領として登場した16年にもジェンダーが問題になった。トランプ氏の女性蔑視発言が一部で許容され、これに対する批判をすると激しいバッシングを浴びた中で、ヒラリー氏は選挙戦を進める上での困難に直面した。
また、ヒラリー氏の経験豊富な政治家としての言動は、「うるさい母親や女教師のよう」だとして若者に忌避された。その全体が残念ながら「ガラスの天井」として、彼女を押しつぶした。


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