今回と次回の2回連続で、メンタルトレーニングの研究・指導で知られる西田文郎(ふみお)さんを取材する。本連載では、2017年8月に「一流の嘘をつける人が「使える上司」」で西田さんを紹介し、2018年1月にも「上司の評価は、「見た目」がすべて!」を取り上げた。いずれも反響が大きかったので、今回はその3回目として紹介したい。
西田さんは、経営者や会社員、プロ野球やサッカーなどのスポーツ選手、教育者などの能力開発指導に長年たずさわってきた。大脳生理学と心理学を利用することで脳の機能にアプローチし、育成する手法(SBTスーパーブレイントレーニング)はよく知られる。現在は、株式会社サンリの会長として、経営者のための「西田塾」を主宰し、全国各地での講演を続ける一方、本などを書き著す。
Q プロ野球の巨人の投手だった桑田真澄さんが、現役のころに西田さんのもとを訪ねたようですね。
桑田さんは、脳のことをもっと知りたいと私のところに来たのです。私と会う前に、解剖学から運動生理学まで念入りに勉強をしているようでした。私は多くのスポーツ選手からメンタル面の相談を受けたり、実際にメンタルトレーニングをしたりしてきました。当時の彼の勉強量は、ほかの選手をはるかに上回っていました。まず、その姿勢に驚いたのです。
勉強だけでなく、あの落ち込む力もすばらしい! 試合などで思い描いたような結果が出ないと、あれほどに落ち込む選手は少ないでしょうね。桑田さんのほかの選手と大きく違うところが、落ち込む力なのです。
当時、私は彼から、メンタルトレーニングの一環として日記を送ってもらっていました。私がそれを拝見し、気がつくことなどを書いて送り返します。そのやりとりをしばらくしていました。交換日記みたいなものです。内容をこの場で公にすることはできませんが、その日誌を見たら、ほとんどの人がきっとびっくりしますよ。彼の真摯な姿勢に心打たれるものがあるはずです。
たとえば、試合で登板し、相手のチームに打たれ、負けたときなどは、自宅から外には出たくないようなのです。ちきしょう、という悔しい思いがものすごく強くて、落ち込んでしまうのかもしれませんね。ほかの選手は落ち込んだ状態から、なかなか抜け出せない。中には、スランプに陥ったり、心身症やうつ病などになる人もいます。
桑田さんは、早いうちに超回復するのです。しかも、一気に…。筋肉だけじゃなくて、心も超回復していくわけです。このやろう、ちきしょう~~、こんなことじゃ負けないぞ、というように。否定的なものを自らのエネルギーに変えられるのです。
彼は大変な勉強家ですから、私とのやりとりなどを通じて脳の仕組みなどを正確に理解しました。今では、研究者のように理論的に説明できるくらいになっているでしょうね。