2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2011年8月30日

 原子力損害賠償法が初めて適用されたJCO臨界事故では、約8000件の請求に対し、9割近くに補償が行われ、補償額は150億円にのぼった。農協が窓口に立ち、交渉に立ち向かうケースが目立つなか、吉田氏は一人で挑んだ。

 「最初はすべて弁護士相手でした。自分で被害金額の書類を作って交渉しましたが、相手は血も涙もなかった。その後、住友金属鉱山(JCOの親会社)の担当者が現地に来た時、直訴し、何とか示談という形で30万円を受け取りましたが、まったく不十分でした」

 当時、吉田氏はイチゴ農家ではなく、様々な野菜を作る有機農家だった。契約した個人宅に定期配達する形を取っていたが、この事故を機に、そのほとんどが契約を解除。経営は成り立たなくなり、結局廃業の道を選んだ。その後、イチゴ農家として再出発し、1年1年コツコツと売上げを伸ばしていくなかで、この原発事故は起こったのだった。

 市場出荷するイチゴの取引価格が1パック20~30円に急落するなど、今回、吉田氏を襲った風評被害も生半可なものではない。それでも「交渉は諦めている」と話すのは、過去にこうした痛手を被っているからなのだ。しかも、今回の被害規模はJCO臨界事故をはるかに上回る。力のない農協非加入農家が諦観の念を抱くのは無理もない。

非加入でも農協の力を借りて

 一方で、この難局を農協に頼って乗り切ろうとしている非加入農家もいる。福島県のトマト農家・守屋純一氏(仮名)はトマトを栽培し、直接市場に出荷しているが、日頃から農協との付き合いは濃い。

 「収穫したトマトは農協の倉庫に保管させてもらっていますし、農協が作る非営利の組合活動(農協青年部)にも加入しています。今回、農協のほうから声をかけてもらって、補償の交渉は一任することにしました。『一個人では太刀打ちできる問題ではないから、一緒にやろう』って言ってもらえたことは心強かった」

 農協非加入農家が厳しい状況下に置かれている一方、農協加入農家の多くは現在「農協からの指示を待っている状況」だという。前述の守屋氏が加入する農協青年部に属する農家(農協加入農家)の一人はこう話す。

 「5月に過去3年分の売上げ伝票を用意するように言われましたが、その後、進展はしていない。今は待つしかありませんが、農協が窓口に立っているのですから、大丈夫だと思っています。

情報“格差”も

 農協加入農家と非加入農家の“格差”は、補償交渉時だけにとどまらない。

 今回の原発事故では、国や県から「野菜の出荷停止」などの指示が出たわけだが、それらの情報は農協には逐一届けられた一方で、非加入農家は、自ら情報収集を行わなければならなかった。茨城県常陸大宮市の有機農家・横倉隆氏の周囲では、こんな事態が起こってしまった。


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