2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2011年8月30日

 「ホウレンソウの出荷停止後、福島県は『土壌表面の放射性物質の拡散を防ぐため、田畑を耕さない』などのルールを発表しましたが、私たちの元には届かなかった。すぐにトラクターでホウレンソウを潰し、耕してしまった仲間もいました」

 こうした“格差”に危機感を覚え、農協非加入団体や業者のなかには、急きょ連合会を設立したところもある。千葉県には野菜の産地直送を行っている業者が多く存在している。彼らは、東電や国などに一緒に補償を求めたり、ダイレクトに情報が届くようにするため「千葉県契約取引事業者連合会」を設立した。

 この連合会に参加したある業者は「組織」の威力をすぐに実感したという。この業者では国からの出荷停止指示前に、自ら野菜の出荷を止めたが、この「独自の判断」が補償対象になるのか危惧していた。しかし連合会の動きにより、農林水産省の副大臣への面会が実現し、補償の対象である言質をもらうことができた。現在は賠償請求に向けて、一丸となって動いている途中だ。

 とはいえ、普通の農協非加入農家が何人か集まっても、これほどのパワーを持つことはありえない。前述の連合会は、ある程度大きな団体や業者が組んだからこそ“発言力”を持ったといえよう。

 今回の原発事故では、出荷制限などによる損害や風評被害を受けた農家に対し、国は「できるだけ補償をしていく」ことを打ち出してはいる。しかし実態は「農協加入農家への補償」だけに比重が置かれており、農協に頼らず生きる小規模農家は置き去りにされている感は否めない。

 この事実を放っておいていいのか。原子力損害賠償紛争審査会がまとめた「賠償を認める対象や範囲」は、まだ中間指針の段階だ。農協非加入農家に対する補償についても深く言及していくことが急務だと、私は考える。


永峰英太郎(ながみね・えいたろう)
1969年東京生まれ。明治大学政治経済学部卒。業界紙・夕刊記者、出版社勤務を経て、フリー。人物ルポを得意とする。著書に『日本の職人技』『「農業」という生き方』『日本の農業は“風評被害“に負けない』(いずれもアスキー新書)、『売れるネットショップ実践指南』(MdN)など。メールアドレス:eitaro.nagamine@gmail.com

 
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