東京電力福島第一原子力発電所事故の損害補償について、政府の原子力損害賠償紛争審査会は、この8月に「中間指針」をまとめ、農産物に関して「政府の出荷制限などによる損害」はもちろん「風評被害」についても広く認定し、救済の間口を広げた。
実際にこれまで福島など6県の農協グループが約432億円の賠償請求を行い、約94億円の仮払いが行われたことも明らかになっている。
農協加入ありきの補償申請書類
この流れを見ると「農家への補償はしっかり行われる」と捉えがちだが、この賠償請求は「農協グループ」に向けたものであり、つまり農協加入農家が対象といえる。非加入農家はまだ一切の補償を受けていないとみていい。
茨城県那珂市の有機農家・和知健一氏は、日本ではあまり馴染みのない野菜を多く栽培し、主にレストランや個人宅に直接出荷している農協非加入農家だ。今回の原発事故で約3か月間、収入が途絶えた。
「6月頃に役場が農家に向けて補償に関する説明会を開いたんです。農協に加入していない農家も参加できるという話だったので、行ってみました」
その場で和知氏が「非加入農家も補償は受けられるのか?」と問うと「書類を提出すれば大丈夫」と答えが返ってきた。後日役場に行き、提出書類のフォーマットを受け取った和知氏は戸惑うことになる。農協経由の市場出荷を前提とした記入内容だったからだ。
「私の場合、一つひとつの野菜の販売価格の記録を残しているわけでもありません。自分で野菜の種を採って植えることも多いので“種代”も明確には分かりません。受け取った提出書類には、何一つ書き込めなかった」
その旨を役場の担当に話すと「それだと厳しいですね」と言われる。その後、繁農期に入り、今現在、和知氏は次の行動に出られないでいる。
「役場を通さずに、直接東京電力に補償を求めることも考えてはいますが難しいでしょう。諦めというか、このまま補償を受けずに終わってしまう気がしています」
JCO事故でまともに補償受けられず廃業
一個人の農家が東京電力に直接交渉するのは容易なことではない。茨城県のイチゴ農家・吉田潤氏は「99年に起ったJCO臨界事故の風評被害の時の交渉で、非情を味わったので、今回も諦めている」と話す。