2024年11月23日(土)

経済の常識 VS 政策の非常識

2011年9月21日

 海の近くに住みたい人にも土地はある。都市計画家で、東日本大震災復興構想会議専門委員の西郷真理子氏によると、石巻市も気仙沼市も戦後市街地が拡大したが、人口は市街地の拡大ほど増大していない。これらの市の旧市街地はいずれも山裾のわずかに高い土地にある。そのような場所であれば、津波が来ても被害が小さいし、山に逃げることもできる。ところが、戦後、市街地が低地にスプロール状に広がった。今回の津波で大きな被害を受けたのはスプロール状に広がった新市街地である。しかも、人口は減少している。減少している人口を前提に、旧市街地に人口を戻せば、新たに土地を造成したり、これまで以上に大規模な堤防を造ったりする必要はない。新たなコンパクト・シティを造ればよい。大規模な公共事業に予算を使うより、住宅や漁業の再建にお金を使った方が良い。

 さきほどの土地の嵩上げでは、4メートルも嵩上げしようとしているらしい。しかし、嵩上げされた土地はふかふかで建物を支える力がない。家を建てるためには、もとの地盤まで杭を打たなければならない。こんなことをすると、1階をコンクリートで造るのと変わらないくらいにお金がかかる。それくらいなら、嵩上げなどにお金を使うのを止めて、1階をコンクリートで造るお金を補助すれば良いではないか。その方が、ずっと安い。海の近くの地盤の弱いところに建てられた建物以外では、コンクリートの建物は津波で破壊されていない。1階は浸水するかもしれないが、2階以上は無事だろう。1階を駐車場に、2階以上を居住スペースにすれば命を奪われる可能性は低くなる。

震災と関係ない出費が必要なのか

 さらに、震災復興と関係のないことに巨額の予算が使われようとしている。宮城県の復興計画2次案では、電力の自給体制を充実させ、災害に強い街づくりを目指すため、復興住宅に太陽光発電設備の全戸整備、高台移転で造成する住宅街にバイオマスエネルギーを導入し、エコタウン化を進めるとある。これらはいずれも高コストのエネルギーで、補助金を投入しなければ維持できない。停電に強い街にしたいということであれば、ディーゼル発電機などを用意しておけば済むことではないか。

 阪神・淡路大震災でも、震災復興とほとんど関係のないことに予算が使われた。震災の直後も、神戸は、引き続き神戸空港の建設を進め、空港を「防災の拠点」と位置づけ、復興の手段だとした。しかし、空港建設費用は、空港関連施設用地の売却益をあてる予定だったが、ほとんど売れていない。復興どころか、市の赤字を増やしただけだった。

 震災復興の名の下に、いかに巨額の税金が無駄に使われたかは、阪神・淡路大震災でもっとも大きな被害を受けた神戸市の長田区に行ってみれば分かる。消防車も通れない住宅密集地域の道路を広げ、延焼を防ぐために公園を造り、耐火性の高い建物にするのは当然だ。だが、拡大した商業施設にテナントが入っていない。シャッター通りを復旧するどころか、シャッター通りを新たに造ったのだ。というより、ゴーストタウンになっている。新幹線で、本論を読んでいただいた方には、是非足を延ばしてJR神戸駅から2駅の新長田駅に降りて、ゴーストタウンを見ていただきたい。

◆WEDGE2011年9月号より



 

  


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