初めて本誌に寄稿させて頂くにあたり、まずは簡単な自己紹介をさせて頂きたい。私はスペインのカタルーニャ州バルセロナ在住のサッカー指導者だ。こちらに来て4年となる今シーズンはUD Unificación Bellvitge(ウニフィカシオン・ベルビッチェ)という地元社会人チーム(スペイン6部リーグ所属)でコーチを務めながら、スペインの監督ライセンス最高位であるレベル3(日本のS級ライセンス相当)取得のための学校に通っている。
そんな私だが、ここではスペインから見た、現地のスポーツ風景や日本のスポーツ育成事情に関して綴っていこうと思う。
1月。日本ではラグビーの花園やサッカーの高校選手権、大学の箱根駅伝など多くの学生スポーツがメディアを賑わせる時期だろう。選手たちにとって1年に1度やってくる晴れ舞台であり、言うなれば、そこは青春の全てを捧げてたどり着いた“夢の舞台”だ。
例えば高校サッカー選手権は全国から集まった48校で日本一をかける大会である。参加校の大会登録人数は20人。試合に出ることができるのはスタメンである11人と、選手交代が4人まで。
ちなみに高校生年代の日本のサッカー人口は176,292人だという(2017年/JFA.jp)。全参加校から登録選手中の最大の15人が出場したとしても、その人数は全体の約0.4%。
通常、選手権に出るほどの学校ともなれば、部員数は100人を優に超える。ここにたどり着くまでにはその中からの15人に選ばれなければならない上、選ばれたとしても各県内の熾烈な代表校決定の予選を勝ち抜かなければならない。
まさに夢の舞台だ。
「夢の舞台に向かって青春の全てを掲げる」。そこでは感動あり涙ありのストーリーが展開される。非常に美しく映る光景だ。そんな光景にイチャモンをつけるつもりはない。だがふと思った。現在自分が住んでいるスペインではこのような学生年代に全てを捧げ、目標とする“夢の舞台”が あるだろうか? ……ない。
これは恐らく私一人の感覚ではない。スペインではほぼ全ての指導者、選手がそのような“夢の舞台”を思い浮かべることがない。
少しこちらのサッカー環境の話をすると、こちらの「Fútbol base(フットボール・バセ)」と呼ばれる19歳以下の年代では、U10、U12、U14、U16、U19とほぼ2学年ごとにカテゴリーが分けられ、各カテゴリー1〜4部ほどの構成で9〜10月から6月頃までの年間を通じたリーグ戦が行われている。
リーグ戦の間に小さなトーナメント式の大会なども多少はあるが、こちらの感覚からすれば、選手にとっては「リーグ戦が全て」だ。はっきり言ってしまえば、ほかの大会はあまり重要ではない。