さらに、同会見でプーチン氏は、ユーラシア同盟は2015年頃に実現することを想定し、それまでに多くの規範となる法令を採択し、加盟国の現行法に修正を加えていくとも述べている。その段階では、査証体制などの分野も統合されていて、「ユーラシア同盟」にかなり近い形になっているはずだともされている。それらの準備には、2011年1月1日から機能する「ユーラシア経済共同体裁判所」が、『ビジネス及び経済生活参加者すべての利益を擁護する追加的な保障』を作り出すことが期待されている。
なお、同日、「関税同盟」は、キルギスの加盟申請を受け入れ、4ヶ国体制になった。なお、現在、タジキスタンやモンゴルも関税同盟への加盟を検討中だと言われており、さらに、シリアと関税同盟との自由貿易地域の計画が既に策定されているだけでなく、ニュージーランドやベトナムとの自由貿易地域についての協定の準備も進んでいる。このように、関税同盟が発足するまでは時間を要したにもかかわらず、その後の展開は極めて順調であるかに見える。
欧州より、アジアより、まず旧ソ連地域
プーチン氏は、最近、再三にわたり旧ソ連域内での協力は、ロシアにとって無条件の優先課題であると主張している。「ユーラシア同盟」の効率を高め、その権威と国際的地位を高めていくとも発言している。ただし、域内諸国の経済構造がアンバランスであること、さらに世界の経済事情が悪化しているなど、多くの不安定要因があることも認めつつ、だからこそ、入念に検討し、議論された政策を打ち立て、緊密な協働行動をとることで、世界の一極になる意志も表明している。
つまり、最近のプーチン氏の言動や実際にCIS域内で進んでいる動きから鑑みるに、プーチン氏の外交のターゲットは第一義的に、欧米でもなければ、日本を含むアジアでもないことは明らかだ。そういう意味では、プーチン氏も述べているように、対日外交の路線にも変更はないのかもしれない。
幕が開くまで分からないプーチン劇場
以上、見てきたように、ソ連に哀愁を感じるプーチン氏が、欧米との対抗やロシア経済の強化のために、旧ソ連地域の再統合を復帰後の外交の中核としようとしているという見方ができる一方、この動きを下院選挙向けのポーズだと見る向きもある。
たとえば、今年12月の下院選、来年3月の大統領選を前に「ソ連にノスタルジーを感じている有権者を狙うトリック」だという見方を報じた新聞もあるのだ。確かに、旧ソ連諸国には、ソ連時代への強いノスタルジーを持つ者が少なくない*。
これまでもプーチン氏は、何かの目的のためにシナリオを作り、演技を重ねて、自分の思惑を実現してきたことが多々あった。そのように考えれば、この一連の動きが選挙という目的を達成するためのシナリオの一部という見方もできなくはないだろう。プーチン劇場は手が込んだ演出をしてきた。プーチンの大統領としての仕事、そして外交の動きは、やはり幕が開くまでは分からない面も多いというのも事実である。
しかし、「ユーラシア同盟」をめぐる動きでは、実際に、旧ソ連諸国を巻き込んでその準備が順調に進んでいる。実際に「ユーラシア同盟」がプーチン氏が主張しているレベルにまで発展するかは未知数であるが(ちなみに、CISやCISに付随する軍事、経済協力もロシアが望むようには進んでこなかった)、少なくともロシアに忠実な諸国はロシアについて行くだろう。その発展の趨勢は、プーチン氏の手腕にかかっているのかもしれない。
*拙稿「ベルリンの壁崩壊から20年~地域住民の明暗」(シノドスジャーナル、2011年10月18日)参照のこと。
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