2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年4月10日

 トランプ大統領の常識に反する、戦術ないし取引一辺倒の政策の決定やそのやり方は、前代未聞である。例えば、ゴラン高原のイスラエル主権の支持は、歴史と基本的な国際原則に反する。

(siridhata//iStock)

 3月22日、トランプ大統領は「今日」財務長官が発表した対北朝鮮追加制裁を撤回するよう命令したとツイッターに書き込んだ。同日に発表された制裁は何もなかったことも有り、政権内は混乱した。米財務省は、3月21日に、北朝鮮の制裁逃れを支援しているとされる中国の大連海博国際貨運有限公司と遼寧丹興国際貨運有限公司の2つ海運企業に制裁を掛けた。当初、トランプ大統領が述べたのは、この制裁措置の撤回かと思われた。しかし、その後、トランプが取り消しを指示したのは、近々発表する予定の対北朝鮮追加制裁のことだったことが判明した。発表予定の対北朝鮮追加制裁に、トランプ大統領がツイッターで突然、一方的に、しかも公の面前で待ったをかけたのである。なお、制裁撤回の理由を尋ねられたサンダース報道官は、「大統領は金正恩委員長が好きであり、そのような制裁は必要ないと大統領は考えている」と発言しているが、これも驚くべき軽さである。 

 トランプ大統領の決定に、北朝鮮は、ほくそ笑んでいることだろう。北朝鮮は、厳しい態度の高官や論理的な事務レベルを排除して、感情的なトランプ大統領個人と交渉したいと思っている。今回のトランプの発言は、側近達や事務レベルの信頼性を傷つけ、金正恩の術策に乗ることになってしまった。

 もう一つ心配なのは、今後、トランプとボルトン大統領補佐官(安全保障担当)やムニューシン財務長官、場合によってはポンペオ国務長官との関係が旨く行くのかどうかである。ボルトン、ムニューシンとトランプとの関係が微妙との指摘は、以前から出ていた。 

 当面は、米朝話し合いが途切れることはないであろうし、そうしなければならないだろう。細やかな外交交渉が求められる。向こう三カ月位の間が、非常に重要なように思える。トランプ大統領は、側近の信頼性を傷つけてはならない。政権のメッセージはきちっとした部内調整を経て出すべきである。北朝鮮の狙いは、トランプを裸の王様にすることだ。更に、制裁は最重要の対北朝鮮外交の梃子であり、これを大事にしていかなければならない。場合によっては、追加制裁も必要になってくるかもしれない。 

 韓国は、米朝対話の再開に向けて、鄭義溶(大統領府安保室長)の中国派遣、徐薫(国情院長)の米国派遣などで動き始めているようだ。また変な動きにならなければ良いがと心配される。

 他方、ハノイ後の米国の対韓姿勢は厳しくなっている。米財務省は、3月22 日、北朝鮮による瀬取への関与が疑われる船舶のリストを発表したが、その中に韓国船 1 隻(LUNIS)を含めた。この船は、積み替えの前後に釜山、麗水、光陽に立ち寄ったことがわかっている。かかる状況を背景に、今般、米沿岸警備艇「バーソルフ」が瀬取の取り締まりなどのため、朝鮮半島海域に配備された。沿岸警備艇の海外派遣は異例である。韓国メディアは、米国の韓国への不信の表れだとの見方をしている。更に、3月20日には、訪韓中のコーツ米国家情報長官が文在寅大統領や国情院長と会談した。会談の内容については明らかになっていないが、北朝鮮情勢について意見を交換するとともに、韓国の引き締めもしたのであろう。 

 北朝鮮の韓国に対する姿勢も硬化している。3月22日、北朝鮮のメディアは、韓国は米朝間の仲裁者でなく、当事者の役割をすべきだと批判した。更に同日、北朝鮮は、韓国があれほど重要視している開城の南北共同連絡事務所から撤収した。韓国はもはや利用価値はないと判断したのか、あるいは、ハノイ会談等を通して、韓国の言ってきたことに不信感を抱くようになっているのだろう。
 

  
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