2024年12月6日(金)

ちょっと寄り道うまいもの

2011年12月15日

 小京都という言葉が似つかわしいところといえば、金沢が一番しっくりくる。特に食いしん坊の目には。古い町並みや神社仏閣は言うまでもないが、加えて、地域の食材。京野菜に加賀野菜がある。さらに、湯葉やお麩(ふ)も。

 ただ、金沢というと、どうしても、魚介が美味しいもので(それに治部煮〔じぶに〕などの鴨も)、そのあたりを目当てに寿司屋、居酒屋、料理屋に足が向いてしまうが、お麩も良いのだ。金沢独特のお麩の世界がある。普段のなまぐさ三昧を多少恥じて、たまにはお精進的な料理、食材もと思い立った。

 訪ねたところは、古い町並みが残る東山の一角にある「加賀麸司 宮田」。創業明治8(1875)年で、現在の宮田千暉(ちあき)社長は5代目という、お麩の製造販売の老舗である。

 「そもそも、お麩とは小麦粉の中に含まれるグルテンというタンパク質。水を加えて練ったものを、水洗いを繰り返し、残った部分です」と宮田さん。

直火焼きの車麩は、しっかりとした食感。すき焼きや煮物に使うと美味しさが際立つ

 いにしえに中国から伝わったものが原型だが、特に江戸時代から、さまざまな試みがなされ、今のような形になったという。金沢のそれは加賀藩主前田家の料理人、舟木伝内の工夫と伝えられているとも。

 簡単に言ってしまうと、グルテンに小麦粉を改めて加えて焼いたものが焼麩である。型に入れて焼いたものもあれば、車麩のように金属製の棒に巻き付けては直火で焼き、さらに巻き付けて、バームクーヘンのようになるまで焼いたものもある。金沢を中心とした日本海側に特徴的なお麩である。

 特別な形状のものはともかく、焼麩自体はどこの地方でもお馴染みではあるまいか。ただ、生麩はどうだろう。京都やこの金沢ほど馴染みがあるかどうか。こちらは米粉を加えた上で、蒸し上げたりしたものである。生というだけでなく、食感など全然違う。

 ところで、その食べ方。焼麩をすき焼きや味噌汁に入れたりするが、それ以外はあまり知られていないのではないか。ということで、宮田に併設の「鈴庵(すずあん)」を訪ねる。お麩尽くしが名物の料理屋さんなのだ。いつもの近江町市場や骨董通りとして知られる新竪町(しんたてまち)商店街あたりを散策して、お腹をすかした上で。

 手入れの行き届いた庭に、落ち着いた畳の広間。料理は……。

 生麩の刺身。柚子や胡麻、ヨモギなどが練り込まれた色合いも楽しい生麩を、刺身のようにして食べる。これこそ、京都のものというイメージが強かったものが、こちらの城下町にも息づいていたのだと京都・錦と近江町の両方の市場など思い浮かべ、改めて感じ入る。

 あるいは生麩のステーキやカツ。焦げ目をつけて焼き、ステーキ用のソースを絡めたものやら、ヒレカツのような揚げ物の中身が生麩というもの。なるほど、素直な食材だけに、染め方次第でいかようにもなるものだ。同じ生麩でも食感が、調理法により微妙に異なり、それが楽しい。家でも真似が出来そうだ。


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