ノーベル経済学受賞者のポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学大学院センター教授は、トランプ大統領の相互関税発表後からSNSを通し批判を続けている。日米の関税交渉が自動車への関税を含め15%で合意したと報じられた直後の7月23日にも、クルーグマンはSNSを通し日本との合意では目的とする貿易赤字の解消に結び付かないと、3点を指摘した。
“1.何度も指摘しているが、米国の貿易赤字は米国への純対外投資額と同じになる。交渉の結果米国への投資が増えれば米国の貿易赤字も増える。トランプ大統領と閣僚は、国際収支会計を理解していない。それがこの取引に現れた。ドルが買われると為替はドル高になり輸出も難しくなる。
2.トランプは日本の投資に影響力を行使するようだ。ビジネスの成功は、よい製品に依存しており、政治的影響力には依存していない。
3.15%の関税は実に高い。交渉前の農産物を除く日本への関税は1.6%だった。今のところ、事業者が在庫を利用し関税分をあまり小売価格に上乗せしていない。交渉の先行きが不透明で関税がなくなる期待もあったが、15%と決まれば上乗せせざるを得ない。インフレはすぐそこだ。“
7月25日の投稿では関税合意に再度触れ、米国の交渉団は素人集団として、合意内容が米国経済に与える影響が大きいと再度批判した。
一方、今回の合意に関するホワイトハウスのファクトシートと日本政府発表の合意概要には異なる点がある。特に、日本の5500億ドル(約80兆円)の投資に関する米国発表は、米国の指示(トランプ大統領のSNSではトランプ大統領の指示)に基づき投資すると明記され、利益の9割を米国が得ると書かれている。日米政府の理解には隔たりがあるように思える。
たとえば、トランプ大統領は関税合意後アラスカの液化天然ガス(LNG)事業での日米合弁について発言している。一方、日本企業はまだ検討段階としており、ここにも温度差がある。
関税交渉の合意について、日米間で理解が異なっていないのだろうか。日本は投融資について大きなリスクを負ったのではないだろうか。LNG事業は日の目を見るのだろうか。
