関税交渉の裏事情
クルーグマンの7月25日の投稿「実に馬鹿げた取引のアート」は、関税交渉を批判し、その背景を推測している。
“米国の製造業は日本との合意により不利な立場に追い込まれた。自動車が良い例だ。米国製部品を利用するカナダ、メキシコの自動車は25%の関税だが、米国製部品がない日本車は15%になった。米国車が利用する輸入鉄、アルミは50%の関税だ。
関税は日米の競争環境を総体的に日本有利に傾けた。もし、全く馬鹿げた話に聞こえるとすれば、実際にそうだからだ。なぜ、こんなことになったのか。交渉団が素人集団だからだ。
ニュース写真のトランプ大統領が4000億ドルと書かれたボードの数字を5000億ドルに修正しているのを見ると、何をしているのか分かっていなかったのだろう。合意を急ぐあまり米国製造業に不利な関税に合意していることも理解していなかった。合意がないまま自分たちで設定した8月1日が迫り、血迷ったのだろう。ジェフリー・エプスタインから関税のニュースに関心が逸らされることも期待したのだろう。”
クルーグマンは、他の国も日本を見習って合意できると考えるので近いうちに合意するだろうが、多分同じような馬鹿げた内容になるだろうと書いていた。欧州連合(EU)の合意は見立て通りになったようだ。
ホワイトハウスと日本政府はどう伝えたのか
ホワイトハウスの発表内容の中で、投資と日本の購入に係わる部分は概ね次の通りだ。その下の括弧内は日本政府が7月25日に発表した合意概要だ。米国発表にある数字が日本の発表にはないなど、日米の発表で異なる点も目立つ。合意文がないため曖昧な説明がまかり通るのだろう。
〇米国の産業の力を取り戻す
日本は米国主要産業の再興と拡大のため米国の指示により5500億ドルを投資する。トランプ大統領の指示のもと、以下を含む米国の戦略的産業基盤の再活性化に資金は使われる。
エネルギーインフラ・生産、半導体、重要鉱物、医薬品・医療機器、商業・防衛用造船
米国が投資からの収益の90%を得る。
【日米がともに利益を得られる強靱なサプライチェーンを米国内に構築していくため、緊密に連携。日本は、その実現に向け、政府系金融機関が最大5500億ドル規模の出資・融資・融資保証を提供することを可能にする。出資の際における日米の利益の配分の割合は、双方が負担する貢献やリスクの度合いを踏まえ、1:9とする。】
〇米国生産者の市場へのアクセス拡大を確実にする
日本は即座に輸入割り当ての拡大により米国からのコメ輸入を75%増やす。
日本はトウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノール、持続可能な航空燃料(SAF)を80億ドル(1兆2000億円)購入する。
日本はボーイング製航空機100機を含め航空機を購入する。
日本は米国製防衛装備品を毎年数十億ドル購入する。
【バイオエタノール、大豆、トウモロコシ及び肥料等を含む米国農産品、及び半導体、航空機等の米国製品の購入の拡大。ミニマムアクセス米制度の枠内で、日本国内のコメの需給状況等も勘案しつつ、必要なコメの調達を確保。LNG等米国産エネルギーの安定的及び長期的な購入。アラスカLNGプロジェクトに関する検討。】
