カンボジアとタイで国境地帯の領有権をめぐる対立が続く中、タイ王国軍が2025年6月23日、カンボジアとの全ての国境検問所の「無期限封鎖」を実施した。これに関連しタイ国内では、ペートンタン首相がタイ軍を批判しカンボジア側におもねるような発言をした音声が流出し、職務停止となっている。
両国間の物流ルートは突如として断絶され機能不全に陥っている。これは、東南アジアの交通・物流ルートが寸断されただけでなく、日本企業や経済にとっても大きな影響を及ぼし得る。
東南アジアの大動脈が寸断
タイの首都・バンコクからカンボジア北部シソポン州までは約500キロの陸路で結ばれており、トラックによる往来が日常的に行われていた。ここを含めたベトナムからカンボジア、タイ、そしてミャンマーへと約1000キロメートルにわたる交通・物流ルートは「南部経済回廊」と呼ばれ、東南アジアの経済活動を支える大動脈となっている。
インドシナ半島南部を横断するこの回廊は、域内貿易と投資を促進し、製造業の集積を後押ししてきた。日系企業を含む多くのグローバル企業は、この陸路を通じて部品や原材料を効率的に輸送し、サプライチェーン全体の最適化を図ってきた。
しかし封鎖により、物流はベトナムを経由した海上輸送に切り替わり、従来の約3倍にあたる1500キロ超の長距離ルートとなった。これに伴い、輸送コストが3倍に膨らんだケースも報告されており、リードタイムも大幅に延長されている。
この影響は、タイ・カンボジア両国のサプライチェーン全体に深刻な打撃を与えている。カンボジア側では、タイからの食品や医薬品などを扱う小売業者が仕入れを断念し、代替供給先の確保に奔走。タイ国内の製造業では、部品供給の遅延により納期を守れず、操業停止や契約違反による賠償リスクが顕在化している。
とりわけ打撃が大きいのが、自動車・アパレル業界である。これらの業界は、タイからカンボジアへの縫製資材や自動車部品の運搬を陸送に依存してきた。
南部経済回廊のほぼ中央に位置するタイ・サケオ県の国境検問所は、特に自動車関連製品の物流の要である。24年にはカンボジアから32億バーツ(約140億円)相当の自動車関連製品を受け入れており、これは同製品群の対タイ輸出の8割超(金額ベース)を占める。今回の国境封鎖により、事実上、機能停止に追い込まれており、その影響の大きさは計り知れない。

