サプライチェーンは効率性から安定と持続可能性へ
こうした貿易摩擦や地政学リスクが同時多発的に表面化する中、グローバル企業は従来型のサプライチェーン戦略の見直しを迫られている。自由貿易主義のもと、「どこで作れば最も安く済むか」を基準に最適化されてきた従来の手法は、もはや通用しない。単一のサプライチェーンに依存することは、大きなリスクとなる。
いま求められているのは、明確なパラダイムシフトである。これは、経済・政治の前提が大きく変化する中で、企業の判断基準や行動様式も大きく転換せざるを得ない状況を意味する。すなわち、効率性とコスト削減を最重視したこれまでの戦略から、多元化・柔軟性・レジリエンスを兼ね備えた新しいサプライチェーン構築への移行が求められている。
リスクをゼロにすることは不可能だ。しかし、複数の輸送ルート・供給元・生産拠点を持つことで、突発的な事象への対応力は高められる。
サプライチェーンの「単線依存」から脱却し、バックアップのある「複線構造」を持つこと。それはもはやオプションではなく、企業存続に不可欠な基盤となりつつある。
安さだけを追い求めた時代は終焉を迎え、これからは「どこであれば安定的に、柔軟に供給が継続できるか」という視点が最優先される。企業がグローバル競争を勝ち抜くためには、コストではなく、安定性と持続可能性で差別化を図る時代に入っている。
南部経済回廊の混乱は、その新たな時代の到来を象徴する出来事といえるだろう。

