2025年12月5日(金)

21世紀の安全保障論

2025年7月20日

 「安倍さんには貿易交渉で譲り過ぎたかもしれない」――。2020年8月31日、安倍晋三首相は、米国のトランプ大統領に首相を辞任することを伝えた電話で、労いの言葉に続いて、トランプ氏からそう告げられたことを明かしている。

 これは『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)の中の記述で、安倍氏も鮮明に覚えていたということだろう。互いを「ドナルド」と「シンゾー」と呼び合うほどの信頼関係を築いてきた2人だが、当時の新聞各紙によれば、「最も親しい友人である安倍首相の辞任を寂しく思う。しっかり療養して健康状態を回復してほしい」と気遣ったトランプ氏が、電話会談の最後に日米貿易交渉を回顧したということは、就任前からの持論であった貿易赤字の解消に強いこだわりを持ち続けていたという証でもある。

石破首相(右)はトランプ大統領と安倍元首相のような関係を築けているのか(首相官邸HPより)

 それを踏まえれば、2期目のトランプ大統領が、これまで以上に「米国第一主義」の旗を振り、貿易赤字の解消を強く求めてくることは、日本政府にとって、一筋縄ではいかない厳しく難解な課題であることは容易に想定できたはずだ。

首相の顔がまったく見えない日本外交

 7月8日、トランプ大統領から「25%の関税発動日を8月1日からとする」との首相宛ての書簡が届けられて以降、石破茂首相が発した言葉は、官邸で開かれた対策会議での「誠に遺憾だ」に続き、千葉県内での街頭演説で「国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか」と啖呵を切ったことが報じられている。

 劣勢が伝えられる参院選の最中で感情が高ぶったのかもしれないが、品のないケンカ腰の表現にはガッカリさせられた。「なめるな」と言いたいのなら、なめられないだけのことをしてきたのかと問いたい。

 米国との関税交渉が始まった4月以降、約2兆円という巨額な投資が評価され、批判的だったトランプ氏が一転して日本製鉄による米USスチールの買収を承認したこともあり、関税交渉も日米同盟という強い絆があれば特別扱いしてくれるのでは、という根拠のない見通しがあったのかもしれない。だが、最大の失敗はトップ同士で突っ込んだやり取りができなかったことだ。

 その象徴が6月にカナダで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)だ。日米首脳会談が開かれたと報じられているが、関係者によると、休憩時間の合間の短い時間で、石破首相とトランプ大統領のほかに、他国の首脳らも居合わせていたという。“会談”は非公開で、石破首相は「双方の認識が一致しない点が残っている」と説明しているが、実際に何が話し合われたのか、どのようなやり取りがあったのか、改めて検証する必要があるだろう。


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