2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年7月12日

 7月7日(現地時間)、ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名等略)は、自身のSNSに日本や韓国に送付した関税に関する書簡を掲載した。以下では、トランプのこの書簡の狙いと日米関税交渉の打開策について述べた上で、同交渉を文化的視点で捉えてみる。

(fongfong2/gettyimages)

書簡は「交渉戦術」ないし「交渉カード」

 トランプはいの一番に、日本に関税率に関する書簡を送りつけ、その中で日本から米国に輸出される全ての製品に対して25%の追加関税をかけると一方的に突き付けた。トランプは、日本は伝統的に外圧に弱く、圧力をかければ容易に譲歩して、7月9日の交渉期限までに合意できる相手と計算していた節がある。

 加えて、日本の対米輸出の依存度が高いことを考えれば、トランプは、日本が交渉において「弱い立場」にあるとも認識していたに違いない。

 ところが、日本が想定外にタフで、安易に合意せず、そのことに対する苛立ちを隠せなくなったのだ。

 トランプは書簡の中で、8月1日に関税措置を発動すると述べたが、「米国と貿易相手国との関係により、関税率は修正されるかもしれない」とも明記した。トランプは、書簡を送られた貿易相手国が、関税徴収の同月1日までに、慌てて譲歩をしてくるのを待っている。

 そのようにして、より多くの貿易相手国と合意にこぎ着けることができるという狙いがあるのだ。書簡は、むしろ「交渉戦術」ないし「交渉カード」と捉えた方が良いだろう。

予測不可能から予測可能へ

 トランプは4月2日、ホワイトハウスで貿易相手国に対する追加関税を発表した。しかし、市場が混乱すると、即座に90日間の延長に踏み切った。90日間に貿易相手国と交渉を行い、米国に有利なディール(取引)をまとめようとしたのだ。

 だが、90日間で合意できた国は、イギリスとベトナムの2カ国のみであった。中国とは部分的合意と言われている。当初、ホワイトハウスは、90日間で90の取引を成立させると約束していたので、目標とはほど遠い数字だ。

 そこで、トランプは今回の関税率発効を8月1日までに延長し、その間に貿易相手国と交渉をする戦略に変えた。

 トランプには、期限を設定しても効果が上がらないと延期し、それでも結果が出ないと、さらに延期するというパターンが存在する。これでは、貿易相手国は「延期」を期待し、交渉を引き延ばす戦略に出るのではないだろうかというのが大方の見方だった。

 しかし、トランプは7月9日(日本時間)、「延期は認められない」と自身のSNSに投稿した。貿易相手国に延期はしないと釘を刺してみせたのだ。交渉の駆け引きは続いている。

トランプとベッセントの心理的距離

 トランプは、貿易相手国に書簡を送りつける前に、日本に対して30%から35%の高関税をかけると脅し、記者団に「日本は甘やかされてきた」と指摘した。書簡を送る直前に、日本から大幅な譲歩を引き出すことができると期待したのだろう。

 一方、関税交渉を主導するスコット・ベッセント米財務長官は、日米が関税交渉において合意が困難な理由に、7月20日に投票が行われる参議院選挙を挙げ、日本に配慮したとも解釈できる発言をした。また、ベッセントは、貿易相手国との関税交渉が、9月1日(月曜日)の「労働者の日」まで延長される可能性にも言及した。

 ベッセントは、関税に強硬な立場をとるトランプやピーター・ナバロ大統領上級顧問(貿易担当)とは異なり、現実的で穏健派である。日本に対する関税措置に関して、トランプとベッセントの間には心理的距離があった。

 ちなみに、「トランプ関税交渉の行方『強硬派ナバロ対穏健派ベッセント』」で説明したように、ベッセントは2020年米大統領選挙で民主党のアル・ゴア元大統領候補を自宅に招いて、大規模なパーティーを開催して、ゴアのために献金を募った。その後、ベッセントは、ヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ元大統領にも献金をしている。

 先月、あるネット番組で、ベッセントは「あなたは民主党支持者だった」と指摘されると、「自分の人生は95%共和党、5%民主党だ」と答えた。しかし、彼は決して自分をMAGA(マガ Make America Great Again:米国を再び偉大にする)とは言わなかった。

 トランプは、日本に対して30%以上の高関税こそかけなかったが、ベッセントのように日本の選挙事情を一切考慮せずに書簡を送りつけた。その背景には、前述した苛立ちと、7月4日に成立したトランプ肝いりの大型減税・歳出法により、税収が必要になったことが、少なからずあったかもしれない。


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