2025年7月10日(木)

トランプ2.0

2025年6月30日

 ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名等略)は、6月22日(日本時間)、3カ所のイラン核濃縮施設攻撃に踏み切った。20日、同国に対して、2週間以内に攻撃をするか決定を下すと発表しておきながら、その2日後に軍事行動に出た。

 それは、このところ指摘されているTACO(タコ Trump Always Chickens Out:トランプはいつもおじけづいて身を引く)」というイメージを払拭し、断固たる決断ができる「強いリーダー」を演出したかったのだろう。

 しかし、トランプの熱狂的なMAGA(マガ Make America Great Again:米国を再び偉大にする)支持者や、米国民の半数近くは、トランプのイラン核施設空爆を支持していない。以下では、MAGA支持者の声と空爆に関する最新の世論調査結果を紹介し、その上で、イラン核施設攻撃後のトランプの「力による平和」の意味について述べる。

(Donald Iain Smith/gettyimages)

MAGA支持者の声―少数派のスミス氏

 ジャック・スミス氏(仮名)は、米大手製薬会社を退職し、現在、中西部インディアナ州インディアナポリスに住んでいる。スミスは、今年2月、MAGAたちが集まった保守派の年次大会「CPAC(シーパック 保守政治行動会議)2025」に参加した。そのCPAC大会において、筆者が行動を共にした人物の1人である。彼にトランプのイラン核施設攻撃について聞いてみた。

 スミスは、まず「米国がイランに対し軍事行動をとらないようにと願っていました。トランプは大統領として素晴らしい仕事をしてきたからです。イスラエルはイランにすでにかなりのダメージを与えていました」と答えた。彼は、イラン核施設攻撃は不必要であったと考えている。

 また、スミスは「仮にイランを攻撃するならば、多国籍軍による攻撃を望んでいました」とも語った。今回のような単独の軍事力行使に否定的な立場をとっている。

 さらに、スミスは「今後、米国内でテロが発生したら、民主党や左派は、イランを攻撃したトランプを批判するでしょう。イスラエルと米国によるイランへの武力行使が、世界大戦に発展したら、彼らは明らかにトランプを批判します」と加えた。彼は、トランプのイラン核施設攻撃が、近い将来、民主党と左派の攻撃材料になることを懸念している。

 後述するように、彼の意見はMAGAの中では少数派である。しかし、MAGAたちの日常のネットワークから推すと、彼の考えもある程度、仲間内では共有されている可能性は充分ある。

イラン攻撃「不支持」の米国民

 では、米国民はトランプのイラン核施設攻撃をどのようにみているのだろうか。ロイター通信と調査会社イプソスの全国共同世論調査(6月21~23日実施)によれば、36%が「支持」、45%が「不支持」と回答し、不支持が支持を9ポイント上回った。

 ただ、米CBSニュースと調査会社ユーガブの全国共同世論調査では、MAGA支持者の94%が米国のイラン核施設空爆に対して「支持」と答えた。「不支持」は僅か6%であり、スミスはMAGAの中では少数派だ。

『MAGAと非MAGAが大激突!解体されたUSAID元職員が語る“怒り”、米国社会の新たな分断』で説明したように、MAGAたちがオールドメディアないしレガシーメディアに替えて、主たる情報源としているニュースマックスによると、トランプは力を見せ、ノーベル平和賞に値する。

 米CBSとユーガブの調査で看過できないのは、49%が「米国のイランへの核施設空爆は、イランが核兵器を開発させる可能性を高めた」と回答したことである。これに対して、「可能性を低めた」は22%に止まった。29%は「変わらない」と答え、空爆の有無にかかわらず、イランは核開発を継続するという考えを示した。

 今回のトランプ政権によるイラン核施設への空爆は、「国際秩序を保つための一定の貢献」や「イラン核開発の問題を先送りしなかった」という評価がある一方で、米国民の中には「イラン政府は、これまで以上に核兵器製造を目指す決意を固める」および「イランに(自国の防衛のためには)核開発しかないと思わせてしまった」と、不安を抱く米国人もいる。そうした人々は、今後のイラン情勢に楽観的ではなく、トランプのイラン核施設空爆は、逆効果になる可能性が高く、中長期的にみると米国を守る目的を果たせないとみているのだ。


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