2025年6月17日(火)

トランプ2.0

2025年6月5日

 ドナルド・トランプ米大統領(以下、人名には初出のみ敬称および官職名を付す)は、5月下旬、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に「この僅か4カ月で、われわれはかつてないほど敬意を受けるようになった」と投稿し、米国内の工場にやがて数兆ドルの投資が呼び込まれるとも述べて、「これは、本当に米国の黄金時代だ」と強調した。トランプは、黄金時代がすでに始まったというメッセージを米国民に発信した。

 トランプは自分の政策の実施状況や成果が思わしくない場合、手持ちの多くのカードの中で、その状況から国民の目を逸らすためにより大きなインパクトを与える可能性のあるカードを選んで切る。それが今回の場合、「ハーバード叩き」と、「日本製鉄の新たな利用方法」である。

 そこで、この2枚のカードを取り挙げて、トランプの黄金時代について考えてみよう。

トランプ氏の言う「黄金時代」は、本物なのか?(Wachiraphorn/gettyimages)

「ハーバード叩き」から見えるトランプの黄金時代

 トランプは、ハーバード大学がキャンパスで反ユダヤ主義に対する策を充分とっていないとし、同大学への補助金の凍結、免税資格剥奪、留学生受け入れの資格取り消し(5月22日時点)、学生ビザ取得のための面接の一時停止などを行った。なぜ、このタイミングでハーバード大学叩きに走ったのか。

 まず、イスラエル―ガザ戦争と関係がある。仲介役のトランプは、イスラエル―ガザ戦争の和平交渉のプロセスにおいて目に見える成果を上げることができないでいる。そのために、同戦争から米国民の目を逸らせて、国内で得点を稼ごうとしているのだ。

 例えば、トランプは、ハーバード大学のユダヤ人学生に対する「嫌がらせ」に対して、同大学が充分対応していないとして、反ユダヤ主義の学生の排除を訴える。その狙いは、自身の支持基盤であるキリスト教右派の支持を固めることである(図表)。キリスト教右派は、シオニズムを支援しているからである。   

 また、トランプが打ち出したハーバード大学に在籍している留学生の排除や、学生ビザ取得のための面接の一時停止には、支持基盤を構成する反移民の白人支持層を固める狙いがある。

 トランプは自身のSNSに「反ユダヤ主義のハーバード大学から30億ドル(約4320億円 1ドル=144円で換算)の補助金を取り上げることを考えている」と投稿して、取り上げた金を全米の職業訓練学校に分け与えることが重要な投資であると続けた。その意図は、支持基盤を構成する反エリートの労働者の支持を固めることだ。

 ここでもトランプは、労働者の良き理解者であり、ケアをしてくれるリーダーとしての像を強化している。

 さらに、ハーバード大学は、エリートの象徴であり、リベラル色の濃い大学でもあるので、反リベラルの保守派や極右団体の心情や主義に訴える力もある。

 他にも、ハーバード大学の留学生は全体の約27%だが、トランプは15%が望ましいと述べた。その背景には、例えばDEI(Diversity多様性、Equality公平性、Inclusion包摂性)政策へのトランプの反対がある。

 特に、白人が不公平に扱われており、ハーバード大学で教育を受けることを望んでいる白人が、留学生のために入学できないと述べている。

 これらに加えて、トランプはハーバード大学などで学ぶ中国人留学生を標的にして彼らのビザを取り消す動きに出た。「中国共産党とつながりのある学生」を排除する目的であり、北極海における中国の航行の問題を念頭にしたグリーンランド買収、中国が支配するパナマ運河の管轄権再取得と並んで、トランプの「中国封じ込め」のためのパッケージの1つになっている。

 こうして見てくると、トランプは、キリスト教右派、反移民の白人並びに労働者の支持基盤固めのために、ハーバード大学を最大限利用し、移民を排除して「米国を再び白人にする(マワMAWA: Make America White Again)」ことで、黄金時代を実現しようとしていることが分かる。

 では、米国民はトランプとハーバード大学の対立をどう見ているのか。米ニューハンプシャー大学が、ハーバード大学がある東部マサチューセッツ州の州民を対象に行った世論調査(5月22~26日実施)をみてみよう。同調査では、10人に6人の割合で、同大学を支持した。

 また、同州の民主党支持者の88%、無党派層の66%が、トランプの補助金削減の脅しに「反対」と回答したのに対して、共和党支持者の89%は「賛成」と答えた。

 トランプのハーバード大学に対する政策に関して、党派という切口でみると、分断していることがはっきり読み取れる。2026年の中間選挙において鍵を握るのは、無党派層である。今回のトランプ流のやり方によって、無党派層にパラダイムのシフトが起これば、民主党に有利に働くだろう。


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