2025年12月16日(火)

トランプ2.0

2025年6月5日

黄金時代実現の壁

 トランプにとって黄金時代実現に立ち塞がる訴訟が起きた。ニューヨーク・マンハッタンにある米国際貿易裁判所の裁判官3人が、5月28日(現地時間、以下同)、トランプ政権が関税措置についてその根拠とした国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act: IEEPA)は、非常事態下における場合に限定して適用されるものであって、貿易赤字はこれにあてはまらないとして差し止めを命じたのだ。即ち、同権限法は大統領に無制限の関税権限を与えるものではないと判断したのである。

 また、国際貿易裁判所は、合成麻薬フェンタニルや不法移民の大量流入を理由にトランプ政権が中国、メキシコ、カナダに課した関税に対しても差し止めた。

 これに対して、トランプ政権は即座に控訴した。米連邦巡回控訴裁判所(高裁)は29日、同政権の控訴を検討するために国際貿易裁判所の判断を一時停止し、トランプ関税を復活させた。

 トランプは、連邦最高裁で決着をつける考えだ。自身のSNSに「連邦最高裁が、この実にひどい米国を脅す決定を早く決断力をもって覆すことを望む」と投稿し、上記の3人の裁判官を「急進左派」として非難した。

 トランプは不倫口止め料を弁護士費用として計上し、帳簿改ざんで有罪判決を受けたときも、裁判官に急進左派のレッテルを貼って非難した。今回も同様に、トランプは自身の「プレイブック」に基づいて3人の裁判官の信頼を貶める戦略に出た。ちなみに、米公共放送(PBS)によれば、3人の裁判官は、ロナルド・レーガン元大統領、バラク・オバマ元大統領とトランプ自身が指名した裁判官である。

 今回の国際貿易裁判所のトランプ関税差し止めは、何を意味しているのか。

 まず、今のところ米国で、下級審の司法において三権分立と民主主義が機能しているということである。トランプは選挙で選ばれていない判事は、大統領の権限を止めることができないとこれまでも議論してきたが、国際貿易裁判所のトランプの関税措置に対する差し止めは、大統領の越権行為にストップをかけて「チェック・アンド・バランス」が機能することを証明した。

 仮に連邦最高裁まで進んで、トランプの経済政策の柱である関税措置の効力が失うような判断が示されたとしよう。その場合は、貿易不均衡を是正し、海外から投資を呼び込み、米国内に工場を建設させ、製造業を復活して、大量の雇用創出をするというトランプが描く黄金時代の実現は困難になる。

 しかし、連邦裁判所の現在の判事の構成をみると、トランプが指名したニール・ゴーサッチ氏、ブレット・カバノー氏およびエイミー・バレット氏の3人によって、保守対リベラルが「6対3」という片寄った割合になっており、今述べた仮定は起こらない可能性がある。


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