筆者は2月下旬、南部メリーランド州で開催された保守政治行動会議(CPAC)の年次大会に参加し、MAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大にする)運動を支持するトランプ支持者を対象に、会場でヒアリング調査を実施した。その目的の一つは、「トランプ1.0」のときのMAGAたちと、「トランプ2.0」の彼らが、どのように変化しているのかを知ることであった。
CPACの大会で、筆者はシカゴから妻を同伴して参加したトム・ファイファー氏と出会い、昼食を取るなど行動を共にした。60代以上の白人男性で、中東でビジネスを行った経験があるファイファー氏がこう語ったのだ。
「もうFOXニュースは観ていない。観るならNewsmax(ニュースマックス)だ」
ニュースマックステレビは、ジャーナリストであるクリストファー・ラディ氏によって2014年に設立された極右の新興メディアである。トランプ氏の「御用メディア」であった保守系のFOXニュースは、20年の大統領選挙でバイデン前副大統領(当時)の勝利確定を報道し、トランプ氏を怒らせた。FOXの選挙分析は正確であったが、中でも西部アリゾナ州でのバイデン勝利の予想は、特に彼を激怒させたと言われる。そこにラディ氏は、 MAGA運動を支持する視聴者を奪うビジネスチャンスがあるとみて、選挙が「盗まれた」と持論を展開するトランプ氏を一貫して支持し、MAGAの視聴者を獲得していったのである。
ごく最近の例では、ニュースマックスは、政府効率化省(DOGE)トップで実業家のイーロン・マスク氏による連邦政府職員の大量解雇に対する抗議をテロリズムとして非難して、マスク氏を擁護するトランプ氏と一致した立場をとっている。
ファイファー氏は、FOXでは自己満足の欲求が満たされず、より強い〝刺激〟を求めていた。それは、筆者に鎮痛剤フェンタニルを想起させた。米国社会ではフェンタニルの過剰摂取による死者数が急増し、社会問題になっている。フェンタニルの中毒者は、やがてより強いカルフェンタニル(通称「スーパーマリオ」)を求めるようになった。これと同様にMAGAたちは、「劇薬」を求めてFOXからニュースマックスに乗り換えたと言える。
CPACの大会中、休憩時の大型スクリーンにトランプ氏の姿が映し出されたが、そのCMで「私はニュースマックスを選択する」と述べ、これが幾度も会場に流れていたのも印象的だった。