2025年12月6日(土)

Wedge OPINION

2025年5月7日

独裁者か民主主義か
マスク氏を巡る断絶

 2日後の27日と翌28日、元USAID職員は資料整理のため、15分間のみ、オフィスに立ち入ることが許可された。筆者は27日、再度USAIDに出向いた。ちょうど、元職員たちが建物に入って行くところだった。中には、旅行用のスーツケースを持った元職員もいた。オフィスから持ち出す資料を入れるために、建物から少し離れたところにいたボランティアの支持者たちが大量の段ボール箱を用意していた。段ボールの箱には、「ありがとう。誇りを持って。堂々と顔を上げて」と手書きで書かれたものもあった。

資料整理のため15分間のみオフィスに立ち入ることを許可された元USAID職員
USAIDのオフィスから持ち出す資料を入れるためボランティアが用意した大量の段ボール箱

 建物の周辺には、USAIDの支持者やマスク氏に対する抗議者がプラカードを持って集まって来ていた。手書きで「マスクを解雇せよ」「労働者を怖がらせることはマネジメントではない」「USAID、ヒーローたち、ありがとう」「独裁者か民主主義か、我々の選択が米国を定義する! 正しい事をやれ!」「一緒にマスクとトランプを打ち負かそう。信念を貫け!」などと書かれたものがあった。

 制限された15分間で、書類を整理して持ち出した元職員たちが建物から出てくると、拍手が起こった。彼らに花束を渡す者や、抱き合う者もいた。

 複雑な思いを抱えながら、筆者はヒアリング調査を続けた。

 USAIDを退職したという女性職員に自己紹介すると、彼女は「エチオピアやケニアでJICA(国際協力機構)と一緒に仕事をした。JICAはすばらしい」と笑顔で述べた。ただ、筆者からのマスク氏に関する質問に対して、今度は表情を一変させて次のように述べた。

 「USAIDは人々をケアするがマスクはそれをしない」

 当然だが、USAID元職員には、「反マスク」感情が極めて強い。英誌エコミストと調査会社ユーガブの全国世論調査(3月30日~4月1日実施)によれば、マスク氏に対する好感度は「好感」42%、「非好感」53%。ちなみに、トランプ氏は「好感」45%、「非好感」52%なので、両氏の不人気度はほぼ同じだ。

 同調査(3月16〜18日実施)では、「政府効率化省は、規模を拡大すべきか縮小すべきか」という質問に対して、2024年米大統領選挙でトランプ氏に投票した有権者の52%が「拡大」と回答したのに対して、民主党支持者の67%が「廃止」と答えた。同省に関する見方は、支持政党によって二分されている。

 筆者がCPACの年次大会でヒアリングをしたMAGAたちは、マスク氏を拍手喝采で迎え入れ、彼に共感を示した。一方、USAID解体の抗議運動で会話を交わした非MAGAたちは、マスク氏に対して強い怒りを抱いていた。トランプ氏と蜜月関係にあるマスク氏を巡って、MAGAと非MAGAの断絶がある。実際、連邦政府職員の大量解雇に反感を持った人々が、テスラ車の不買運動を起こし、テスラ車の放火に発展した。マスク氏は、省庁という狭いゾーンを対象にした「フラッド・ザ・ゾーン戦略(情報洪水戦略)」を展開しているが、その効果は上がっていない。


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