
ウクライナと米国は、4月30日にウクライナ国内の鉱物資源開発を共同で行う経済連携協定に署名した。この協定は、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの停戦にどのように影響するかについて考察したい。
米財務省は、この協定がウクライナの復興を加速させるためのものであると述べている。ベッセント財務長官は、和平プロセスへの関与を明確に示すと強調している。2月には、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の間で激しい口論があり、協定は一旦取りやめになったが、4月30日にワシントンで両国は復興投資基金の設立に合意した。
この基金は、ウクライナと米国が共同で運営し、ウクライナ国内の鉱物資源、石油、ガスの採掘プロジェクトに投資する。また、ウクライナの資源の所有権はウクライナにあり、基金の運営においても両国は対等な関係を維持することが確認された。米国は、この基金に対し直接資金を投入しつつ防空システムの供与を通じて貢献する。
ウクライナ側の発表によると、すべての資源はウクライナの所有と協定に明記。両国が50%ずつ出資し資源開発を目的にした基金を設立し、権益についても対等なパートナーになる。過去の支援の返済は明記されず、今後の支援が対象になる。
EU加盟を妨げない “安全の保証”は明記されないが、基金を通じて防空システムの供与など新たな支援の可能性は残された。
米国にとって、この協定はウクライナの豊富な鉱物資源を確保できることを意味する。これにより、技術開発や製造業の競争力を高めることができる。また、ウクライナとの協力を通じて、東欧における地政学的影響力を強化し、ロシアの影響力を低下させることも可能である。
しかしメリットばかりではない。ウクライナの政治的・経済的な不安定性が続く中、米国企業にとっての投資リスクは依然高く資源開発には時間がかかるばかりか、過去の100兆円とも言われる武器供与の債務整理が期待されるわけではない。また当然ながらロシアとの緊張が新たに高まる可能性は高い。
トランプとプーチンとゼレンスキーの壮絶な駆け引き
協定が合意されるまでの1週間は劇的な変化があった。特に26日のバチカンにおけるトランプ大統領とゼレンスキー大統領の膝詰め会談が流れを変えた。27日のルビオ国務長官は、米国が停戦の仲介を止める可能性に言及した。28日にはプーチン大統領が5月9日の戦勝記念日の前後3日間の停戦を発表した。29日にはゼレンスキー大統領がプーチン大統領の停戦はまやかしだと非難声明を出しロシアを一蹴した。
ウクライナのシビハ外相もXで「ロシアが真に平和を望むのであれば数日間ではなく、完全な停戦が必要だと重ねて訴えた。そして30日の鉱物資源開発を共同で行う経済連携協定の署名に至ったのである。トランプとプーチンとゼレンスキーの壮絶な駆け引きの結果であった。
ウクライナにとって、この協定は経済支援を受ける機会であり、米国の技術を活用することで鉱業技術が向上する。さらに、米国との関係強化は安全保障面での後ろ盾となる。一方で、鉱業の拡大に伴う環境リスクや、外国企業の影響が強まることによる政治的不安定性も懸念される。
ロシアにとっては、ウクライナと米国の協力がロシアの経済的影響力を低下させる結果となる。また、ロシアとしての地政学的影響力が低下し、軍事的緊張は緩和しない。
今回の協定により、ウクライナは最悪の事態を回避し、トランプ大統領も面子を保った。協定はウクライナの和平プロセスに向けた一歩となる可能性があるが、依然として停戦の実現には多くの課題が残されている。
米国がウクライナとの協力を通じて得られる地政学的利益は以下の通りである。
- ロシアの影響力抑制:ウクライナはロシアとの境界に位置しており、地政学的に非常に重要な位置を占める。米国がウクライナと協力関係を強化することで、ロシアの影響力を相対的に低下させ、ロシアの勢力圏拡大を阻止することができる。
- NATOと欧州の安全保障強化:ウクライナとの協力は、NATOと欧州全体の安全保障を強化する役割を果たす。特に、東欧地域における米国の軍事的および政治的プレゼンスを強化し、NATOを安定させることにつながる。
- エネルギー安全保障:ウクライナはエネルギー供給路として重要な役割を果たしており、特にロシアから欧州への天然ガス供給のルートに位置している。ウクライナとの協力により、エネルギーの多様化や安全保障を促進し、ロシアのエネルギーを武器化する能力を抑制することが可能となる。
- 経済的影響力の拡大:ウクライナとの経済的協力を通じて、米国は東欧地域における経済的影響力を拡大することができる。特に、鉱物資源やエネルギー分野での投資を通じて、地域における米企業のプレゼンスを高めることができる。
- 民主主義と法の支配の促進:ウクライナは民主化の過程にあり、米国との協力は民主主義や法の支配の価値を促進することに寄与する。これにより、地域全体の政治的安定性を向上させることが期待される。
これらの地政学的利益は、米国の国際的な影響力を強化し、欧州およびユーラシア地域における安定性と安全保障を支える鍵となる。