2025年12月5日(金)

21世紀の安全保障論

2025年7月20日

 拙稿『「イラクの記憶がよみがえる、またか」…石破首相のNATO首脳会議への参加見送り、陸海空の自衛隊幹部も愕然』(Wedge ONLINE 7月7日公開)で詳述したように、石破首相は次に会談する機会になったかもしれない北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への参加を見送っており、日本のトップとして、今の難局を自ら打開しようという意欲が感じられなかったのは残念でならない。

戦後80年、日本の針路を明確にせよ

 今年は戦後80年という節目である。80年間を象徴する場面を一つ挙げるとすれば、筆者は2016年5月のオバマ大統領の被爆地広島への訪問と、それに連なって同年12月に安倍首相がハワイ真珠湾を訪れ、真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊したことだと思う。

 読売新聞が「戦後の日本外交の重要な到達点」と記したように、戦火を交えた日米両国が、深い絆で結ばれた同盟国になった「寛容と和解の力」を世界に示すことができたからだ。

 と同時に、戦後の日本人が憧れ、受け入れた「自由で、夢があり、そして強いアメリカ」をもう一度再生させ、同盟をより強固なものにする以外に、これからの日本の針路はないと思うからだ。

『安倍晋三 回顧録』
安倍晋三 著/橋本五郎/尾山宏 聞き手/北村滋 監修1980円(税込)

 そのために何をすべきか。ヒントは安倍氏の『回顧録』の中にある。貿易赤字に強い不満を繰り返し表明していたトランプ氏に対し、安倍氏は「NATOも日本も協力するから、自由世界のリーダーとして振る舞ってほしい」と機会ある度に言い続けてきたという。

 トランプ氏の関税政策を簡略化すれば、まず貿易赤字を解消するために、各国には米国から多くのモノを輸入させ、次に関税を高めて各国から米国への輸出を減らせば、各国の企業は米国内でモノを生産、製造せざるを得なくなるという発想だろう。

 であるならば、日本のリーダーはまずトランプ大統領に対し、「貿易赤字を解消し、関税政策を進めれば、米国はもう一度、自由で、夢があり、そして強いアメリカになってくれるのか」を問う必要がある。そして彼が「YES」と答えてくれれば、「これからもアメリカは自由世界のリーダーとして振る舞ってほしい。それであれば日本も欧州も協力する」という立場で臨んだらどうだろう。

日米とも「海洋国家」の再構築が必須

 そのためには日本単独ではなく、同盟国や同志国ができる対米支援策をリアルに具体化することだ。その一つは、大きく弱体化した米国造船業への支援と日本の造船基盤の強化だ。一石二鳥と言っていい。

 トランプ政権は4月、大統領令「米国の海洋支配力の回復」を発し、造船業の復興と海軍力の急速な拡大を追求している。世界の造船市場と造船力は今、中国が圧倒的なシェアを占めているからで、同月下旬には、米国のジョン・フェラン海軍長官が来日し、中谷元防衛相との間で、米海軍艦艇の日本での共同整備など協力強化を確認している。

 南シナ海と東シナ海、そして太平洋における中国の海軍力強化による覇権主義的な行動を考えれば、日本にとっても必須の課題である。


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