2025年12月5日(金)

21世紀の安全保障論

2025年7月20日

 日米関税交渉では、船舶の共同製造や米国内に修繕ドックを設けることなど米造船業への支援策が提示されているというが、そんな小手先のアイデアではダメだ。

 かつて造船大国といわれた日本も、建造施設は統合・縮小され、熟練工の高齢化など人材不足は顕著で、産業基盤は衰退の一途をたどっている。今回の米大統領令を好機として、日本と米国という海洋国家を再構築するために、政府は国家戦略として、国内造船基盤の強化を目指すと同時に、日本と韓国、欧州など米国の同盟国が連携して米国造船業を復興させるグランドデザインを提示してもらいたい。

混沌の時代を終わらせるために

 13年秋、オバマ大統領が「米国は世界の警察官ではない」と発言、国際秩序を支える役割から降りる姿勢を見せてから、世界は混沌の時代に突入した。翌14年にはロシアがクリミヤ半島を併合し、中国は南シナ海に人工島を造り、軍事基地化するなど米国の影響力の低下に比例して中露の行動が拡大しているのは紛れもない事実だ。

 ただし、17年からのトランプ政権1期目は、安倍首相の存在によって、トランプ大統領は自由主義国のリーダーとして振る舞うことに務め、何とか持ちこたえていた。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)というビジョンも、自由や民主主義、法の支配といった基本的価値を共有する日米豪印によるQUAD(クアッド)という枠組みも、安倍首相の地球儀を俯瞰する外交から生まれたものだ。

 残念ながら自由世界でリーダーとして振る舞える人物はいなくなってしまったが、日本と米国、そして多くの同志国が目指すFOIPというビジョンを色褪せさせてはならない。そのために今、何ができるのか。

 先日、筆者に対しある政府高官は「トランプショックにより、米国への信頼感が低下する一方で、日本に対する期待値が高まっているのを肌で感じる」と話し、「これからは中国の脅威を念頭に、防衛と安全保障に直結する外交が必要だ」と明かしている。防衛省が7月15日に公表した「2025年版防衛白書」は、中国を「わが国と国際社会の深刻な懸念事項であり、これまでにない最大の戦略的挑戦だ」と記し、明確な脅威と位置づけた。

 今後、米国は関税(経済)だけでなく、防衛と安全保障でも日本の努力や貢献を求めてくることは確実だ。20日投開票の参院選は、与党の苦戦、惨敗まで伝えられているが、戦後80年に迎えたこの難局をどう乗り切るのか。その知恵と胆力、そして行動力は政治家だけでなく、私たちにも問われている。

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