トランプ大統領が7月22日の記者会見時に、日本との合弁事業で開発予定としたアラスカLNG事業を例にリスクと投融資の関係を考えてみよう。
アラスカLNGプロジェクトから考える日本のリスク負担
アラスカLNG事業を推進しているのは、75%の権益を持つ米国のインフラ企業グレンファーンだ。残りはアラスカ州政府の企業アラスカガスライン開発公社(AGDC)が保有している。エクソン・モービル、BPが16年に事業から撤退以降AGDCが推進していたが、今年3月にグレンファーンが参画した。
事業計画は次だ。北極海に面したノーススロープ地区で採掘した天然ガスを、アラスカを縦断する1300キロメートルのパイプラインで南部クック湾に送りLNGにした上で輸出する。
23年末の見積もりで天然ガス生産に100億ドル、パイプライン建設に120億ドル、LNGプラントに200億ドルなど合計440億ドル(6兆6000億円)の投資案件。1年以内に投資を決め、31年から年間2000万トンのLNGを出荷予定だ。
既に50社以上が投資、購入、エンジニアリングなどに関心を示しているとされ、国営の台湾中油(CPC)、タイ石油公社、日本のJERA、インド、韓国が購入あるいは投資に関心を示していると報じられている。
事業のメリットは、日本への輸送にチョークポイント(海上の隘路)がなく約1週間で輸送が可能なことだ。一方440億ドルの予算は、その後のインフレを考えると既に膨らんでいるだろう。LNG価格はかなり高くなるのではないか。
事業には常にリスクがある。この事業では、工費、工事期間、米国の政権交代による許認可のリスクに加え、販売のリスクもある。巨額の投資が必要な天然ガス、LNG事業では収入確保のため“take or pay”契約が用いられる。引き取らなくても出荷が可能な限り、買い手は約束した購入代金を支払う義務がある契約だ。
これにより収入を確実にし、融資を受けやすくする。この事業に買い手として参加するならば常に支払いを約束する必要があるだろう。
一方融資する立場としては、工事費上振れ、完工遅れなどのリスクも考える必要があり、LNGが全て契約されても融資可能な金額はせいぜい事業費の7割か8割だろう。もし、この事業で1%、2%の出資が認められるならば、日本の融資者にリスクを押し付け、米国の出資者は丸儲けも可能だ。
出資比率が仮に高くても、日本をはじめアジア諸国の買い手が支払いを保証し、融資は日本となれば、出資する企業のリスクは限定的だ。それで米国は9割の利益をもらえるうまい話を、本当に約束したのだろうか。
合意はLose-Loseでは
日経新聞によれば、日本の1割は国際協力銀行(JBIC)の出資を、残り9割は日本を含む民間企業の出資するものを指し、米国の利益9割は民間を意味すると経産省担当者が説明した。米国発表文からは読み取れない内容だし、赤沢氏の説明とも異なっている。日本側ですら合意内容の理解が異なるのは、どうなっているのだろうか。
赤沢氏が言う1%、2%が、日本の約束した80兆円に限ったはなしで、個別事業での出資比率はリスクに応じ事業費の数割になり、日本の融資のリスクは限定されると言うのであれば、誰が出資し、総額では一体いくらの資金が投じられるのだろうか。米国が案件を指定する中で、日本の融資に関するリスクはどう抑制されるのだろうか。
ラトニック商務長官は「日本は関税15%を80兆円で買った」と発言していると報じられている。発言が正しければ、合意内容はWin-Winではなく、米国は競争力を失い、日本は円安の上にリスクも取りLose-Loseだ。
日米間で理解に違いがあるまま投融資に係わる事業を進めるのは無謀だし、日本が投融資のリスクの大半を取る合意内容とすれば問題だ。このままでは多くの国民も不安に駆られるのではないか。
