ロシアとウクライナの停戦協議が注目を集めている。しかし、個人的にはあまり熱心にフォローする気にならない。停戦の機が熟しているとは、とても思えないからだ。
まず、プーチン・ロシアの側には、今ここで攻撃の手を緩める理由がない。まだ戦争の目的は達していないし、継戦能力は一応持ち堪えているし、戦線でも自分たちが優勢であると認識している。わざと交渉を難航させて、その間にもウクライナ侵攻を続けるのが、ロシアの戦略だろう。
それに対し、ウクライナの側は、今すぐにでも戦闘をやめたいのが本音だろう。しかし、無条件降伏するわけにはいかず、ロシアの理不尽な要求をはねのけるためにも、戦い続けざるをえない。
それではなぜ、機が熟しているとは言いがたいのに、ロシアとウクライナは交渉のテーブルに着いているのか。それは、早期停戦を求める米トランプ政権を敵に回したくないからであろう。
ロシアは、トランプ政権の立ち回りにより、主要7カ国(G7)の対ロシア包囲網が乱れることを期待している。ウクライナに至っては、米国からの軍事支援は生命線だ。そこで、ロシア・ウクライナともに、「我が国はトランプ大統領が主張する早期停戦に前向きだ」というアピール合戦をやっているわけである。
ロシア経済の異変
ただ、上でロシアの継戦能力は「一応持ち堪えている」と述べたが、継戦能力の基盤となる経済の分野で、最近になり異変が生じている。今年に入ってからの経済指標が、軒並み悪化しているのだ。
つい最近まで、ロシア経済の状態を表現する言葉としてよく使われていたのが、「過熱」だった。実際、いびつな形ではあれ、ロシアの景気は確かに良く、2024年の実質経済成長率は4.3%と発表された。
しかし、25年に入ってから明らかに様相が変化し、「過熱」はもはや過去のものとなった感が強い。実際、図1で四半期別の国内総生産(GDP)成長率を跡付けると、24年までは4%前後の成長率を保っていたGDPが、25年第1四半期には1.4%という平凡な数字に終わっている。