なお、ロシア政府には石油価格が高かった時期に溜め込んだ財政のリザーブ「国民福祉基金」というものがある。しかし、同基金の流動部分は6月1日現在で2.8兆ルーブルにまで低下しており、25年の財政赤字をこの資金で全面的に穴埋めすることはできない。残りは国債発行で賄うしかない。
米国の政権が、対ロシア制裁を推進したバイデン氏から、経済実利第一のトランプ氏に移ったことを、ロシアは神風のように受け止めた。しかし現実には、トランプ政権がもたらした関税戦争で、世界経済に不透明感が生じ、石油価格が下落している。
そのあおりで、ロシアは予算修正まで余儀なくされているのだから、皮肉なものである。ことほどさように、石油価格の下落は、下手な制裁よりもロシアに効くのだ。
いずれプーチンも苦しくなる
本稿で見てきたとおり、25年に入りロシア経済には明らかに変調が生じている。ただ、今すぐに経済が崩壊したり、財政が立ち行かなくなったりといったレベルではない。増してや、現時点でプーチンが、「経済の調子も悪いんで、このあたりで戦争はやめておくか」と思考することは、ありそうもない。プーチンにとっては、あくまでもウクライナ侵攻策が主であり、経済は従であろう。
それでも、国際社会がロシアへの対応を検討する際に、経済はかなり苦しくなってきていると、正しく認識しておくことは必要だ。このまま油価の低迷と制裁の強化が続けば、ロシア経済が本当に危機的となり、プーチンもいよいよ本気で停戦を考え始めるかもしれない。今すぐには難しいだろうが、1年後にはそうなっていても不思議ではない。