2022年7月3日(日)

さよなら「貧農史観」

2011年12月26日

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昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

 どんな事業でも業を成り立たせて行ける人とそうでない人がいるように、稲作、畑作、園芸、果樹、畜産、酪農など、農業のどの部門でも同様である。これまでに輸入自由化されたオレンジやサクランボなどでもそうであった。自由化により価格が下がることで経営が破たんすると考える前に、その業界や産地あるいは農家が時代やマーケットの変化に対応する能力が問われるべきなのである。

 茨城県のレンコン農家の宮本貴夫さん(34歳)は、弟の昌治さん(32歳)と昭良さん(31歳)とともに3人で「れんこん三兄弟」という会社を作った。品質へのこだわりと熱心な営業によって、良質食材を求める小売業やレストランなど業務用の直販を中心に販路を広め、収益率を高めた。三兄弟とも法人化1年目から給料は月額50万円で会社としても利益を出している。かつて人は「労働力」としてしかみなされず、長男が家を相続し、二男三男は家を出ていくのが普通だった。宮本三兄弟はお互いを「労働力(体力)」としてではなく、その資質の違いを「経営力(人材)」として活かす知恵を持っているのである。彼らのような兄弟経営の例は、全国のあらゆる作物でも増えている。

農業に夢を抱く人材を育てよ

 筆者が出会ってきた農業後継者たちは、必ずしも親が大儲けをしているから継いだのではない。農業を通して時代や社会にチャレンジし続ける親や先輩の姿を見て育ったからだ。そして彼らは、親の誇りを受け継ぎつつ、親とは違った未来を創り出そうとしている。

 農家の子供の多くが農業を継ごうとしない理由は様々だが、「農業が儲からないから」という理由だけでは決してないと思う。

 これまで日本の農政は、戦後の農地改革の思想に基づく農地・農業政策とそれを前提にした戦後的な村の論理が、耕作規模の拡大を困難にし、農業の産業化を阻んできた。加えて農業構造の変化を抑制する戸別所得補償制度のようなバラマキ政策が現在も続いている。批判を恐れず敢えて言うなら、「農業は尊い仕事だ」と言いつつも、農業保護ばかりを叫ぶ農業界や農家、補助金なしには農業が成り立たないような親の後ろ姿を見て、子供たちが農業に誇りを持つことができるだろうか。

 逆に今、非農家の若者の多くが農業に夢を抱くのは、そうした農家や農業界の被害者意識にとらわれず、農業に新しい可能性を見出しているからだと私は思う。農業関係者は、過剰な農業保護を喧伝しても、後継者は増えないことにそろそろ気づくべきだ。むしろ、宮本兄弟のような農家を一人でも多く増やすことが農業に夢を抱く人材を育てるのではないのか。

◆WEDGE2011年12月号より


 




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