2024年7月16日(火)

赤坂英一の野球丸

2019年7月3日

青木が語った根拠とは?

 では、青木がそう語った根拠は何か。第1のポイントは言うまでもないが、大谷のずば抜けた身体能力、それがあって初めて可能な打撃の技術だ。

 青木をはじめ大打者、好打者の誰もが指摘するように、サイクルヒットで一番難しいのは三塁打だ。長打力や足の速さにプラスして、打球の飛んだ方向、外野手の判断ミスなど、打者自身の力以外の要因に左右される部分が大きい。

 加えて、青木によると、最近のメジャーは外野手が深く守る傾向が強い。日本に負けず劣らずボールが飛ぶようになり、ホームランが増えている影響もあってか、各球団で強肩を競う外野手たちの守備位置が深くなった。

 こうなると、右打者は三塁線、左打者なら一塁線を破る強い当たりを打たないと三塁打になりにくい。「大谷にはそれができる力、技術、スピードがある」と青木は言った。

 実際、大谷がサイクルヒットをマークした13日、第2打席で打った三塁打はライト線を突き抜ける強烈な打球だった。相手外野手が打球を追いかけている間、大谷は三塁に滑り込まず、逆にベースの手前で足を緩め、ゆうゆうセーフになっていたほど。まさに、力、技術、スピードと、すべてがそろっていた三塁打と言える。

 第2に、最近のメジャーでは極端なシフトを敷く傾向が強まっている。大谷のような左の長距離打者が打席に入ると、右へ引っ張られることを警戒し、サードがショート側へ、ショートがセカンド側へと極端に寄り、セカンドがファーストとの間を狭めるのだ。

 ときには、サードがショートの、ショートがセカンドの守備位置に入るケースも珍しくない。一・二塁間に内野手が3人もひしめき合う一方で、二・三塁間ががら空きになってしまうのだ。これも実際に、大谷のセカンドゴロをショートが処理し、記録上はショートゴロとなったことがある。

 こうなると当然、シフトを敷かれていない方向へ打った打球、つまり引っ張らずに流したり、振り遅れて詰まったりした当たりも三塁打になりやすい。ボールが無人の左翼グラウンドを転がっている間、大谷のような足のある打者ほど、単打が二塁打に、二塁打が三塁打になる可能性が高くなる。

 第3に、メジャーでは左右非対称でいびつな構造の球場が多い。30球団の本拠地球場の中で、日本のように左右対称の球場は僅かに4球場。ほかの26球場は大体、左翼と右翼の広さやフェンスの構造が違う。

 日本のファンにとって印象深いのは、サンフランシスコ・ジャイアンツのホーム、オラクル・パークだろう。シアトル・マリナーズのイチロー(現会長付特別補佐兼インストラクター)が2007年のオールスターで、史上初のランニングホームランを記録したのがこの球場である。打球が右翼フェンスを直撃すると、クッションボールが右翼手の待っていた正面ではなく、横へバウンドしてグラウンドを転々。この間に、俊足のイチローが本塁を陥れたのだ。

 メジャーでは、そんな球場のいびつな構造によって単打が長打になる確率が日本よりも高い、と青木は指摘する。これだけ具体的な理由を指摘されると、大谷だったらサイクルを2度、3度と達成してむしろ当然、という気がしてくるほどだ。


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